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新宿インシデント

Shinjuku Incident
2009/香港/ショウゲート/119分
出演:ジャッキー・チェン ダニエル・ウー ファン・ビンビン シュー・ジンレイ 竹中直人 加藤雅也 峰岸徹 倉田保昭 長門裕之 
監督:イー・トンシン
アクション監督:チン・ガーロウ
製作:ウィリー・チャン、ソロン・ソー
脚本:チュン・ティンナム
撮影:北信康
音楽:ピーター・カム
http://www.s-incident.com

偏差値:38.2 レビューを書く 読者レビュー(1)

INTRODUCTION 
香港が生んだ国際派スターのジャッキー・チェンは、常々アジアの映画は、アジア諸国同士の協力体制がなければハリウッド映画に飲み込まれると言い続け、アジア映画のレベルアップを第一に、今回自らプロデューサーとしてアジア人のアジア人によるアジア人のための映画を製作。ジャッキー・チェン製作、アジアン・プロジェクト第1回作品、それが「新宿インシデント」だ。
 世界一の歓楽街、新宿・歌舞伎町。わずか500メートル四方のこの町には、日本のヤクザばかりか、中国、台湾をはじめ中東までのアジア各国、南米のマフィア組織が集まり、うごめき、予測のできない黒社会が築きあげられてきた。この歌舞伎町を舞台に、アジア全ての映画賞を獲得したいと、ジャッキー・チェンが渾身の演技で新境地に挑んだ“ドラマチック・バイオレンス”大作、「新宿インシデント」。かつて、こんなにも凄惨で、こんなにも激しい、そしてこんなにも社会派のジャッキー映画があっただろうか?

こんなジャッキー、見たことない!ジャッキーが変わった!

 ハリウッドの大作映画への主演が続いたジャッキーが、改めてアジアに目を向けたとき、彼が選んだ舞台は、東京・新宿。中国の貧しい東北部に生まれ育った男が、日本へ行ったきり音信不通になった恋人を探して密入国。辿り着いた先は、新宿の歌舞伎町。言葉も分からず土地感もない異邦人の彼は、歌舞伎町で出会った同郷の不法滞在者の仲間と共に、最底辺の仕事をこなしながら日々の暮らしを送っているが、日本の警察の取り締まりはもちろん、日本のヤクザ、それに中国マフィアからの圧迫という恐怖に常に苛まれながらの毎日。やっとの思いで恋人を見つけたときには、恋人はヤクザの組長と結婚し、娘までもうけていた。人生の3割は運命と諦めるにしても、残りの7割は戦って勝ち取るしかないと思い定めた彼は、日本に残り、仲間と共に新宿で生き抜いてゆく決意を固める。永住権を獲得するため、組長に頼まれたヤクザ抗争絡みの殺人に手をかす。その結果、新宿を取り仕切るようになった組長のもと、ただの中国人不法移民の集団が勢力となり、権力を持つまでになり、男は黒社会の実力者となってゆく。ただ安心して生きる場所を求めただけなのに、いつしか、仲間が麻薬や殺人が日常茶飯事のヤクザの世界に足を踏みいれ、以前とは別の極限状態に陥り、後戻りできないところまで来ているのだった。
 アウトローの聖地といわれる新宿。多国籍の歌舞伎町を舞台に、ギリギリの中で懸命に生きる人間たちの欲望・葛藤、立場をこえた愛と絆。エネルギッシュな裏社会の抗争と愛憎のダイナミックな人間ドラマを描ききった社会派シリアス・ドラマを手がけたのは、『つきせぬ想い』『ワンナイト・イン・モンコック』などで知られる香港映画界の巨匠イー・トンシン監督。撮影は『模倣犯』『寝ずの番』の北信康、キャスティングも、イケメン俳優の殻を破った『女帝<エンペラー>』のダニエル・ウー、『墨攻』のファン・ビンビン、『傷だらけの男たち』のシュー・ジンレイ、それに日本から竹中直人、加藤雅也、峰岸徹、倉田保昭、長門裕之ら、香港・中国・日本の実力派スター、スタッフが集結。ナマの歌舞伎町をはじめ日本各地、蘇州や吉林州・長春にロケーション撮影を敢行、製作費2500万ドルのアジアン・ノワール大作が誕生した。

STORY 
日本海沿岸・若狭湾の淋しい海辺に坐礁した船から、わらわらと人間たちが、駆けだしてくる。中国からの密航者たちだ。自転車でパトロール中の巡査がそれを目撃して近づくが、密航者のひとりに襲われる。散りぢりに逃げる密航者の中に鉄頭(ジャッキー・チェン)がいた。鉄頭は、中国東北部・黒龍江省の寒村で、トラック整備士として働いていた。誠実で働き者の彼には、シュシュ(シュー・ジンレイ)という幼馴染みの恋人がおり、10年以上前に、彼女は叔母を頼って日本に留学していたのだが、その叔母が亡くなった後、音信不通になってしまった。恋人を探し出すため、鉄頭は日本に不法入国したのだった。密航シンジケートの蛇頭から渡された偽造パスポートはなくしたが、当座しのぎの日本紙幣を握りしめ、鉄頭はさしあたりの目的地、東京・新宿へと向かうのだった。
 ようやく新宿の歌舞伎町に着いた鉄頭だったが、とたんに警察の娼婦狩りに出くわし、逃げ隠れるばかり。なんとか密入国者たちがアジトにしている大久保のアパートに辿りつくと、心配顔の阿傑(ダニエル・ウー)が待っていた。先に密入国していた同郷の友人の彼だけが頼りだ。しかし、日々の暮らしは日雇いに最底辺の仕事に追われ、恋人を探す暇もない。そんなある日、地下工事の作業中、警察の手入れがはいる。手錠を目にしてヤバいと思った鉄頭は、その場から逃げだす。それを刑事の北野(竹中直人)が追いかけるが、途中で足を滑らせ、流れの急な下水道に落ちてしまう。溺れかけた彼を助けたのは、見るにみかねた鉄頭で、中国語のできる北野は、命の恩人に、借りがひとつできたなと言い、彼を見逃してやる。
 やがて中華料理屋で皿洗いの仕事についた鉄頭は、客と一緒に路上強盗にあったバーのママ、リリー(ファン・ビンビン)を助けてやると、彼女は自分の店に誘い、境遇を察して金を渡すが、それを拒む鉄頭に好意を覚え、ふたりで飲んで語り明かすのだった。
 そしてある夜、鉄頭は、阿傑と厨房で働くナイトクラブで、ついに恋人・シュシュを見つける。彼女も彼に気づくが、そのまま車で去ってゆく。今の彼女は、新宿を取り仕切る三和会の幹部・江口(加藤雅也)の女房になっていたのだ。その事実を知って愕然とし、泥酔したあげく外娼を買う鉄頭。だが、傷心の彼は帰郷することもできない。なぜなら、国外脱出の際、官憲をひとり殺しているからだ。ここ新宿で生きてゆくしか、道はない。そう決心し、金を稼ぐために偽テレカ売りをはじめ、犯罪は次第にエスカレートしてゆく。
 やがて、溜まった金でアパートの仲間たちから屋台を贈られ、阿傑は念願の天津甘栗売りを始めることに。鉄頭は、盗品を買ってくれる故買屋でリリーと再会。彼女はアジトのアパートに寄るようになり、ふたりの仲は深まってゆく。すべてが順風満帆に思えたのもつかの間、事件が起きる。小心な阿傑が心を寄せている女子校生と親しげにしたせいで、彼女の父親のバーに連れこまれ、阿傑はヤクザにボコボコにされ、屋台まで取られてしまう。それを知った鉄頭と仲間たちは、屋台を取り返そうとして乱闘となり、警察が駆けつける騒動となる。捕まりそうな鉄頭の窮地を救ってくれたのは、刑事の北野だった。
 しかし、一難去ってまた一難、知り合いからパチンコの代打ちを頼まれて気軽に応じた阿傑だったが、それは裏ロムを仕掛けた台だったせいで、台南ギャングに拉致されたあげく、阿傑は顔を切られたばかりか右手まで切り落とされてしまう。復讐に燃える仲間を抑え、敵のレストランに単身で忍びこんだ鉄頭だったが、隠れているうち、渡川組の陰謀で殺されかけた江口を助けるはめになる。追っ手を振りきり、江口の自宅まで着いてきた鉄頭は、そこで結子と名前も変わったシュシュを紹介される。江口との間に幼い娘がいる彼女に、鉄頭は「母親が泣いているぞ」としか言えなかった。ふたりの昔の関係に気づいている江口だったが、彼は鉄頭に「自分のために働いてくれ」と頼みこむ。彼には野望があった。全国に約70組織、構成員約1万人を抱える三和会の会長が死んで、跡目を村西(峰岸徹)が継いだのだが、中国人マフィアやヤクザ同士の抗争を避け、組織の温存を図ろうとする村西に、跡目を継ぐつもりだった武闘派の渡川組組長(倉田保昭)は反感を抱き、中国人マフィアを利用する副会長の江口を殺し、自分の息子に歌舞伎町を仕切らせる腹づもりだった。そんな対立の図式が明らかになった今、自分が伸し上がるチャンスを江口は見つけたのだ。鉄頭のアパートを訪れた江口は、仲間の安全とリーガルな身分証の代償に、村西と渡川のふたりを殺してほしいと鉄頭に頼む。決意した鉄頭は、村西を刺し殺し、渡川を銃殺する。江口組と渡川組との抗争が激化する中、大物政治家・大田原(長門裕之)の仲介で両者の手打ちが行われ、江口が三和会の会長の座につくことになる。
 東華商事というオモテの看板をもち、自分はカタギの商売をしてても、いつの間にか日本最大の外国人組織のドンと目されるようになった鉄頭。そんな変わった彼を見て、暴力対策本部所属になった北野刑事は呆れる。だが、変わったのは彼だけでなかった。右手をなくした阿傑は風采ばかりか性格も凶暴になり、チャラい男女を引き連れたチンピラ風で、ご法度の麻薬にも手を出している始末。それを鉄頭に教えた北野刑事は、仲間を逮捕されたくなかったら、江口の犯罪の証拠をつかめと迫る。そして阿傑のバックに江口がいるのを知った鉄頭はついに、北野に自分が村西と渡川の殺人に関与したことを告白する。しかし、もう時間切れ。渡川組一派と江口に反感を覚えて裏切った組員たちによる、東華商事襲撃計画が始まっていたのだ……。

イー・トンシン監督のメッセージ
ロケ撮影日誌 私にとって、『新宿インシデント』は、アイデアが浮かんでからフィルムとして完成するまで、もっとも時間のかかった作品になりましたが、それはひとえに、題材のリサーチに魅了され、絶えず物語が進化・発展していたからに他なりません。
 日本に住みついた中国人移民の物語を、最初に思い付いたのは、1997年か98年に、香港の週刊誌に載ったある記事を読んだときでした。世界に散らばっていった中国人が、それぞれの移住先で、自分たちの孤塁を守るコミュニティー作りをするのは少しも珍しいことではありませんが、他のもっと開かれた社会とは異なり、日本は移民の受け入れに不寛容なために、根をはるには難しい国でありつづけました。
 日本で発生したそうしたコミュニティーは、彼らが不法入国者で闇社会の奥深くに存在しているため、ほとんど世間に知られていませんが、その社会の中にいる中国人の人生観を描いてみせたかったのです。とはいえ、これは実話ではもちろんありませんが、私がリサーチして明らかになった事実を踏まえて脚色した物語です。

5月1日(金)、新宿オスカーほか全国ロードショー!!