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ダイアナの選択

The Life Before Her Eyes
2008/アメリカ/デスペラード=日活/90分
出演:ユマ・サーマン エヴァン・レイチェル・ウッド エヴァ・アムーリ ブレッド・カレン ガブリエル・ブレナン 
監督:ヴァディム・パールマン
脚本:エミール・スターン
原作:ローラ・カジシュキー
撮影:パヴェル・エデルマン
美術:マイア・ジェイヴァン
衣装:ハラ・バーメット
編集:デイヴィッド・バクスター
音楽:ジェームズ・ホーナー
http://www.cinemacafe.net/official/diana-sentaku/

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アカデミー賞3部門にノミネートされた『砂と霧の家』で、衝撃的なデビューを飾ったヴァディム・パールマン監督。卓越した心理描写とストーリー・テリングの巧みさで観る者の心をひきつけて離さない若き巨匠が、『クライング・ゲーム』や『ユージュアル・サスペクツ』を想起させる衝撃のラストが待ち受ける野心的なヒューマン・ミステリーを完成させた。
『ダイアナの選択』の主人公は、17歳の女子高生ダイアナ。閉鎖的なスモール・タウンの生活に息苦しさを感じ、もがくように自分の生き方を模索していた彼女は、ようやく不安定な時期を脱し、無限の可能性を秘めた未来に向けて新しい一歩を踏み出そうとしていた。そんなときに起こったハイスクールの銃乱射事件。親友のモーリーンと女子トイレにいたとき、踏み込んできた犯人に「どちらかひとりを殺す」と言われたダイアナは、生を取るか死を取るかの究極の選択を迫られる。それから15年。事件の記憶にさいなまれ、罪悪感に苦しみながらも、懸命に夢に向かって歩んできたダイアナ。優しい夫、利発な娘、やり甲斐のある仕事。すべてを手に入れた彼女は、理想の人生を築き上げたかに見えたが……。
 青春期の迷いの中を揺れ動きながら自分を探し続ける10代のダイアナと、事件のトラウマを抱えながら生の意味を探し続ける30代のダイアナ。ひとりの女性の2つの人生が交錯して進行するドラマは、過去と未来、現実と理想、生と死を対比的に見せながら、すべての予測を裏切る驚愕のラストシーンに向かって突き進んでいく。そこで観客が出会うのは、かつてどんな映画も体験させてくれることのなかった、フラッシュバックならぬフラッシュフォワードの衝撃。物語全体の構造を覆す巧妙なドンデン返しと、全編にわたってはりめぐらされた伏線の糸に気づいたとき、私たちはだまされる快感に酔い、幻惑の感覚に身をゆだねることになる。
 さらにその先に待ち受ける大いなる感動。過去の積み重ねが未来を作るのではなく、未来をどう生きるかというイメージが現在の自分を変え、よりよい未来を作り上げていくという劇中のポジティブなメッセージは、刹那に生死の選択を強いられた17歳のダイアナの心情と重なりあい、切なさをかきたてる。観終わったあとは、誰の心にも、ダイアナというヒロインのあまりにも悲しい運命を悼む気持ちが、わきあがってくるだろう。
 17歳のダイアナを演じるのは、ゴールデン・グローブ賞にノミネートされた『サーティーン あの頃欲しかった愛のこと』で、ハリウッドの若手女優のトップに躍り出たエヴァン・レイチェル・ウッド。15年後のダイアナに扮するのは、『キル・ビル』のアクション・ヒロインぶりで世界を魅了したユマ・サーマン。若さゆえの不安にさいなまれる10代と、過去に負った心の傷にさいなまれる30代。それぞれ違う種類の痛みを抱えたダイアナを、共感を呼ぶキャラクターに仕立てた2女優の熱演は、本作の最大の見どころだ。さらに、スーザン・サランドンの娘のエヴァ・アムーリがダイアナの親友モーリーンに扮し、母譲りの演技派ぶりを披露する。
 ひとりの女性がたどる心の軌跡の物語を、生と死のイメージを強く印象づける花や鳥の映像を通じて、美しく語り継いでいくヴァディム・パールマン監督。長編2作目にして早くも巨匠の風格を備えた彼のもと、スタッフには一流の顔ぶれが揃った。詩人でもあるローラ・カジシュキーの小説を、『ヴァージン・スーサイズ』の流れをくむ少女映画の香り漂わせながら、緊張感に満ちたミステリーに仕立て上げた脚本家は、ラッセル・クロウ主演の「Tenderness」でも注目を集めるエミール・スターン。ダイアナの2つの世界を映像で巧みに描き分けた撮影監督は、ロマン・ポランスキー監督の『戦場のピアニスト』でオスカー候補になったパヴェル・エデルマン。美術は、『砂と霧の家』でもパールマン監督と組んでいるマイア・ジェイヴァン。音楽は、『タイタニック』でアカデミー作曲賞を受賞し、『砂と霧の家』でも同賞の候補になったジェームズ・ホーナーが手がけている。


STORY
 コネチカット州郊外のスモール・タウン、ブライアー・ヒル。ダイアナ(エヴァン・レイチェル・ウッド)は、地元のヒルヴュー高校に通う17歳の女子高生。退屈な町の暮らしに同化できない彼女の胸には、つねに鬱屈した感情が渦巻いていた。自分の未来に希望はあるのか? シングルマザーの母親と同じように、自分もこの町に閉じ込められたまま、生活に追われるだけの人生を送っていくのではないのか? そのモヤモヤした思いを反抗的な態度にぶつけ、学校でもトラブルメーカーのレッテルを貼られるダイアナ。そんな彼女に、親友と呼べる存在ができたのは、ある春の日のことだった。
 親友の名は、モーリーン(エヴァ・アムーリ)。ロッカールームでタバコを吸っていたダイアナに、先生が見回りに来ることを教えてくれたクラスメイトだ。彼女は、毎週日曜日の礼拝を欠かさない品行方正な少女。麻薬の売人と交際しているダイアナとは違い、同じクラスの男子にそっと片思いを寄せる内気な女の子だった。実際、ダイアナとモーリーンには、シングルマザーの家庭で育ったこと以外にまったく共通点がなかったが、2人はなぜか気が合い、すぐに何でも打ち明け合う仲になった。
 夏休み、留守中の家にこっそり忍び込み、プールで泳ぐダイアナとモーリーン。ときにはダイアナのだらしない交友関係をめぐり、2人の仲が険悪になったこともあったが、モーリーンの歩み寄りによって和解したあとは、友情の絆はさらに堅固になったように思えた。2人の運命を狂わせる、あの忌まわしい事件が起こる日までは……。
 その日、授業開始の前に女子トイレに入ったダイアナとモーリーンは、いつものように他愛ないおしゃべりに興じていた。話題は、もっぱらお互いのボーイフレンドのこと。片思い中の彼からデートに誘われたと言って、大喜びするモーリーン。いっぽう、少し前に売人の恋人と別れたダイアナは、いまは別の男性に思いを寄せていた。相手は、生物の先生にすすめられて講演を聞きに行った哲学教授のポール・マクフィーだ。「未来の自分をイメージすることで、現在を前向きに生きられる」。ポールのその主張に感銘を受け、自分の人生にも無限の可能性があることに気づいたダイアナは、手始めにポールに連絡を取るところから新しい人生をスタートさせようとしていた。「私たちって、どのくらいイケてるかしら?」と、お互いの恋の進展に思いをはせ、笑い合う2人。その耳に、遠くの教室から断続的な叫び声が聞こえてきた。続いて鳴り響く銃声。発砲しているのは、昨日ダイアナの前で「クラス全員を殺す」と息巻いていたクラスメイトのマイケルだった。「冗談だと思っていたのに」と、凍りつくダイアナ。そんな彼女とモーリーンの前に、ついに銃を持ったマイケルが姿を現した。「どちらかひとりを殺す。死ぬのはどっちだ?」と残酷な問いかけを発しながら、ダイアナとモーリーンに銃口を向けるマイケル。恐怖で金縛りになったダイアナは、「どうしても殺すなら私を殺して」と、かたわらのモーリーンが叫ぶのを聞いた。咄嗟にモーリーンの手を握るダイアナ。次に選択するのはダイアナの番だった。永遠に感じられる時間が流れる中で、ダイアナは思わずモーリーンの手を離し、「殺さないで」とつぶやく……。