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ジョッキーを夢見る子供たち

Lads et Jockeys
2008/フランス/CKエンタテインメント/99分
監督:バンジャマン・マルケ
http://jockey-movie.jp/

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知られざる、騎手・厩務員養成の国立寄宿学校
そこには厳しいおとなの勝負の世界の入り口に立つ、子供たちがいた——
世代を受け継ぐ血統の宿命を背負った競走馬は、500キロの巨体でありながら、木の葉一枚にも怯える繊細な神経を持つ。馬を扱う者は、細心の注意と敬意を持って接しなければならない。フランスで唯一の国立の騎手・厩務員養成の寄宿学校「ル・ムーラン・ナ・ヴォン」は、競走馬のスペシャリストを産み出すための数少ない教育機関であり、人間より馬が最優先される厳しい世界である。大きな森に抱かれた素晴らしい環境の中、由緒ある競馬場を持つここシャンティの地で、本学校に入学するのは、まだあどけない表情を残した子供たち。夢と不安が入り混じった彼らは、これまでの人生にはなかった過酷な試練に戸惑い恐怖しながらも、世界最高峰のレース、凱旋門賞に出ることを夢見て必死で学ぶ。子供たちは自分の10倍以上の強さを持つ馬に怯え、辛い世話に音を上げるが、その肉体にはいつしか筋肉が付き始め、知らず知らずの内に大人へと変化をはじめている——。


感受性豊かな生き物—思春期の子供たちと競走馬。
二つの魂が響き合い、神秘の瞬間が生まれる。
大人への一歩を歩み始めたばかりの思春期の子供たちと、猛々しさと繊細さを合わせ持つ競走馬。彼らは、時に家族として、時に未来を切り開く運命の鍵として、互いに寄り添ってゆく。馬にとっても子供にとっても、勝つことだけが生き残りの道である残酷な世界。その厳しさを知る者同士だからこそ、神秘的とも言える精神世界を共有できる。子供たちと馬、この二つの魂が交わる一瞬を、『皇帝ペンギン』の名カメラマン、ロラン・シャレが見事に捕らえている。毎日、少しずつ違う姿に変化し続ける成長期の子供たち。肉体だけでなく精神の成長までも、カメラは赤裸々に記録する。『音のない世界で』(94)、『ぼくの好きな先生』(02)など、子供たちのかわいらしさと内に秘めた強さを見つめ、心温まるドキュメンタリー作品を世に送り出してきたフランス映画界から、またひとつ知られざる世界で必死に生きる純粋で真剣な子供たちの姿を捕らえた、感動のドキュメンタリー作品が誕生した。


ジョッキーになれるのは一握り。
誰もが一等賞になれるわけではないが、それでも人生は続く
「仲間、厩舎の人間、馬たちを敬え」「決して汚れたジーンズで馬に乗るな」
厳格な規律の中で学ぶ子供たち。しかし努力が必ず報われるほど甘い世界ではない。みなが一流のジョッキーを夢見て入学するが、夢が叶うのはほんの一握りだけ。あとはまったく別の道を探すか厩務員になるかという、保証のない世界なのである。寄宿学校の厳しい教員や、厩務員たちも、かつては一流のジョッキーを目指してこの学校の門をくぐった、子供たちの未来の姿でもあるのだ。騎手養成という特殊な世界ではあるが、運動会やお遊戯で「一等賞」や「主役」をもうけない昨今の日本の学校教育と対比するとき、厳しくも大らかな人生の縮図のなかで成長する子供たちの姿に、本当の教育とはなにかという意味が浮かび上がる。一等賞になれなくても、人生は続く。ジョッキーになれなかった子供たちも、敗者ではない。


子供たちの憧れ、武豊、オリビエ・ペリエら世界的騎手も出演
2006年、日本を代表しフランス凱旋門賞に名馬ディープインパクトと共に出走した武豊。そして親日家としても有名で、世界中を鞭一本で飛び回る世界的スタージョッキー、オリビエ・ペリエも出演している。ブローニュの森の奥深く、世界一美しいと言われるロンシャン競馬場で活躍するジョッキーたちは、「ル・ムーラン・ナ・ヴォン」の子供たちにとって永遠の憧れの存在である。

2009年1月24日(土) 渋谷シアターTSUTAYAより全国順次公開