青い鳥
2008/日本/日活=アニープラネット/105分
出演:阿部寛 本郷奏多 伊藤歩 井上肇 重松収 岸博之
監督:中西健二
http://www.aoitori-movie.com/
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この作品は昨年7月に新潮社から刊行された重松清著の連作短篇集『青い鳥』の中から、その表題作(初出:小説新潮2006年12月号)を映画化したものです。
原作『青い鳥』は、吃音の臨時教師、村内先生と、彼が派遣されたある中学校の生徒たちとの交流を通し、今この国に顕在する中高生のいじめ問題に真正面から取り組んだ作品です。いじめによる子供たちの自殺が後を絶たないことへの、明確な分析や解決法を誰もが見つけ出せずにいるという昨今の状況を鋭く抉り、広く多くの読者たちに、大きな反響と静かな感動を呼びました。
しかし、この作品の持つ魅力は、単にいじめ問題に一石を投じるという社会性や、ある種のメッセージのみにとどまりません。
なによりも読者の心をつかんだのは、吃音という稀な造形を通して描かれる、主人公村内先生の人間としての魅力にあります。自らのハンディキャップを決してマイナスに捉えるのではなく、だからこそ「一番大切なことを伝えたい」と、懸命に、「本気の言葉」で子供たちに語りかけ、不器用なまでに物事と人間の本質を見つめようとする彼の言動は、時に過激にも見えます。しかしその視線は決して揺らぐことなく、人間対人間として、真の温かさで真っ直ぐに生徒たちに向けられているのです。
この作品の、他のいわゆる教育ドラマ、教師ドラマとは違う新しい切り口は、その視点にあります。いじめを苦にした生徒の自殺未遂という事件を発端とするこの物語は、被害者の生徒でも、直接の加害者たちでもなく、その周りにいたごく普通の生徒の心の動きによって描かれ、進行していきます。この年代の子供たちにとって、友人の「死」を眼前に突きつけられた衝撃は大きく、事件に対する悩みは繊細で純粋です。彼らはそれを持てあまし、イラつき、しかし無言のうちに、自分と向き合い、手をさしのべてくれる「誰か」を待ち続けているのです。
村内先生と生徒たちが一緒に過ごした時間はたった一ヶ月。その不思議な存在感で生徒に向き合う一人の臨時教師に、14歳のナイーブで孤独な子供たちが、戸惑い、反発し、しかしやがて、心の深い部分で通じ合っていきます。
吃音の教師役に挑戦した阿部寛は村内先生役を自然体で演じています。子供たちを見つめる無条件にやさしい眼差しで、原作とは一味違った村内先生像を作り上げています。あらゆる役柄を幅広く演じきってきた彼の演技は、今回の役作りでも、村内先生をよりリアルに見せています。
園部役の本郷奏多は映画『シルク』『テニスの王子様』などで多彩な役に挑戦しているのですが、今回は彼の真骨頂でもある“繊細さ”で見事に14歳の多感な少年を演じています。
本作が監督デビューとなる中西健二は、灘高・東大卒という俊英。今後の活躍に目が離せない期待の正統派監督の誕生です。
主題歌を歌うまきちゃんぐは、06年ヤマハ・ティーンズ・ミュージック・フェズティバル全国大会に中国四国代表として出場し、本年1月にバップよりマキシシングル「ハニー/ちぐさ」でデビューした20歳の新鋭女性シンガーソングライター。切ないメロディと飾りのない言葉が映画の物語性をいっそう引き立てています。
STORY
東ケ丘中学の新学期が始まった。
一見平穏で明るい生徒たちの登校風景。しかし前の学期、一人の男子生徒が起こした、いじめによる自殺未遂で校内は大きく揺れていた。
家がコンビニを経営する野口は、級友たちに「コンビニくん」とあだ名され、何人もの生徒から店の品を要求されては、彼らに渡していた。
そんな行為に耐え切れず自らの命を絶とうとした彼の遺書には「僕を殺した犯人です」と三人の名前が残されていたが、その名が表に出ることはなかった。
マスコミは騒ぎ、教師たちは「生徒指導」の強化で、その事態を乗り切ろうとした。結局、野口は転校。その家も店を閉めた。そして担任の教師高橋は重圧から逃げるように休職した。
新学期初日。そんな2年1組に一人の臨時教師が着任してくる。村内という男性教師の挨拶に、生徒たちは驚く。彼は極度の吃音だったのだ。やがて皆の驚きは笑いに変わっていった。
だがその笑いは村内のひと言で消える。「忘れるなんて、ひきょうだな」
そして彼は野口の机を教室に戻すことを命じ、誰もいないその席に声を掛けた。「野口君、おはよう」
凍りつく生徒たち。一刻も早く事件を「解決」にしようとする教師たちの「指導」で、ひたすら反省を作文にし、野口とのことを忘れようとしていた彼らは動揺し、反発する。
そんな生徒たちに構わず、村内は毎朝、あたかも彼らを挑発するように、無人の机に向かい声をかけるのだった。
——「野口君、おはよう」——
その行為は、2年1組だけでなく、教師や保護者たちの間にも波紋を広げる。
だが、村内はそれをやめようとはしなかった。
そんな村内を見つめる一人の生徒、園部真一がいる。
園部は自分が級友にけしかけられ、一度だけ野口にポテトチップを頼んだことで、深く傷ついていた。遺書にあった「犯人」の名をめぐり不安と猜疑心に揺れ動く級友たちの中で、彼はそこにあるべき名前は自分だと、強く思い込んでいた。
村内が赴任して来て、ひと月。
ある出来事をきっかけに、園部は自分の思いを村内にぶつける。
野口がいつもおどけていたこと、頼まれることがむしろ嬉しそうで、必ず要求以上の品をもってきたこと。
けれどそんな野口が、本当は自分に助けを求めていたかもしれないこと。
訴える園部に、村内はその吃音を振り絞るように、静かに語り始める。
人が人に伝えようとする思い——。それを聞こうとする思い——。そして生きていく上で人が負うべき本当の責任——。
村内の言葉は、ひっかかり、つっかえ、しかしその分より深く、園部の心に突き刺さっていく。
そして、村内が2年1組を去る日が来る。
果たして、園部はじめ、生徒たちに、村内先生が残していったものとは……。
11月29日より、新宿武蔵野館、シネ・リーブル池袋他全国ロードショー!