裁かるゝジャンヌ
La Passion De Jeanne D'arc
1928/フランス/80分
出演:ルイーズ・ルネ・ファルコネッティ ウジェーヌ・シルバン アントナン・アルトー
監督:カール・テオドール・ドライヤー
脚本:ジョゼフ・デルテーユ、カール・テオドール・ドライヤー
撮影:ルドルフ・マテ
(データベース登録者:frost)
偏差値:65.0 レビューを書く
サイレントの至芸。サイレントの至福。 [100点]
1928年にオリジナルネガフィルムがドイツウーファ社の火災により焼失し、完全なフィルムは存在しないとされてきた『裁かるゝジャンヌ』。ドライヤーがオリジナルに使用しなかったフィルムを再編集して第二版としましたが、その第二版ネガも焼失。おまけに製作元は倒産。その後は、世の中に出回っていたポジフィルムをかき集めてかろうじて作品の体をなしてきました。しかし、なんと60年近くも経って、製作直後にデンマーク公開のために送られていた完全オリジナル版がまったくの偶然から発見されます。映画評論家のドナルド・リチー氏が、もう見ることが出来なくなってしまったと嘆いていた、ジャンヌが放血術を施されるシーンなど、ほぼ完璧な形で再び観ることができるようになりました。
今年、このデンマーク版を映画館(アテネ・フランセ文化センター)で観賞できるという幸運にめぐり合いました。しかも、台詞はデンマーク語から再びフランス語に差し替えられ、余計なBGMもない完全無音上映。おそらく1928年公開当時のフランスでも限られた人数しか見ていないはずのドライヤー完全オリジナルに近い状態だったと思います。ああ、なんという幸せ。。。登場人物のクローズアップでつながれるこの映画はやはりスクリーンで見てこそその価値がわかります。
作品は、良く知られているジャンヌ・ダルクの異端審問と処刑を描くサイレントの至芸。リアルさを追求するために、余分な要素を全てそぎ落とした映像が見事。音楽もなくタイトルも最小限、審問室や火刑場の全景も写さず、登場人物同士の関係さえ情報として観客に与えません。その上で、徹底したクローズアップ。ノーメイクで皺の一本一本まで超リアルな役者の表情。これを見せられると、私たちは、まず間違いなくファルコネッティ演ずるジャンヌに激しく感情移入します。シンクロします。そして、そのシンクロ状態でむかえる後半の火刑シーン。そのなんと凄惨で、かつ神々しいこと。世の中にはなんという映画を作る人がいるのでしょう。サイレント最高の作品。
2008/10/26 10:29
frost
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