悪魔のリズム
Arritmia
2007/イギリス・スペイン/角川映画/88分
出演:ルパート・エヴァンス ナタリア・ベルベケ
監督:ビセンテ・ペニャロチャ
http://www.kadokawa-pictures.co.jp/official/guantanamero/
悪魔的な密室のタブーが
フラッシュする妄想と幻覚の迷宮
ハバナの猥雑な熱気と
ラテン音楽が彩る衝撃作
キューバの浜辺にひとりの青年が流れ着いた。国籍も名前も不明の彼は、心身共にボロボロに衰弱し、何者かに追われている強迫観念に脅えていた。やがてハバナのクラブで働く美貌のダンサー、マヌエラの看護を受けた青年は、少しずつ回復し、彼女との激しい愛に溺れていく。しかしグアンタナモ収容所で米軍兵士に容赦なく虐げられた過去は、決して青年を解放してくれなかった。浮かび上がっては消える恐ろしい記憶の断片は、いったい何を物語っているのか。やがて青年自身も想像すらしていなかった、グアンタナモでのおぞましい真実が明らかになる……。
イギリス&スペインの国際的な合作プロジェクト『悪魔のリズム』は、キューバの首都ハバナを舞台にした幻想スリラーだ。眩い空と青い海、そして情熱的なラテン音楽に彩られた独自の文化と風土で知られるこの街のエネルギーを、余すところなくスクリーンに再現し、観る者をめくるめく甘美な映像体験へと誘っていく。
悪名高きグアンタナモ収容所で
何が起こったのか?
そして言葉を失うほど
驚愕のラスト15分間!
しかしそのカリブのワンダーランドで繰り広げられるのは、背筋が凍りつくほど恐怖と謎に満ちたドラマである。主人公の名もなき青年は、グアンタナモ収容所を脱走してハバナに流れ着いた逃亡者。収容所で反米テロリストと決めつけられ、犬のように檻に繋がれた彼は、米兵による人格を破壊するような尋問、拷問によってこの世の地獄を覗き込んできた。どこにも悲鳴が届かない密室での惨劇を、生々しいリアリティで描き出すフラッシュバック映像の数々は、観る者すべてを戦慄させ、忘れえぬインパクトをもたらすに違いない。なかでも“消せない記憶”という悪魔に取り憑かれた主人公が行き着くラスト15分間の“驚愕の真実”には、言葉を失うほどの衝撃がみなぎっている。
ブッシュ政権下の対テロ戦争の激化に伴い、グアンタナモ収容所にはアルカイダやタリバンといった多数のテロ容疑者が拘留されるようになった。ここに収容された容疑者たちは裁判も受けられず、米軍のテロ情報収集のため人権を無視した拷問的な行為にさらされているとして、世界的な非難の声が高まっている。無実でありながらテロリストとして拘束されたパキスタン系イギリス人青年3人の収容所体験を映画化した『グアンタナモ、僕達が見た真実』(06/監督:マイケル・ウィンターボトム)も、大きな反響を呼び起こした。『悪魔のリズム』はまさにタブーを恐れることなく、メディアも立ち入ることのできない秘密の収容所に隠された真実へと切り込んだ問題作なのだ。
スパニッシュ・スリラーの
新たな才能が紡いだ
官能的でエモーショナルな
白昼夢のごとき映像世界
光と影、生と死、恐怖と愛の切なさのコントラストが鮮烈な印象を残す本作の監督を務めたのは、先鋭的なスリラーやホラーの若き鬼才たちを次々と輩出しているスペイン映画界の次代を担う新鋭ヴィチェンテ・ペニャロッチャ。センセーショナルな社会派テーマに斬新な切り口で挑み、エロティシズムすら匂い立つ白昼夢のごとき映像世界を紡ぎ上げたその手腕は注目に値する。プロデューサーの良き友人でもあり本作の非公式なアドバイザーでもある作家のカズオ・イシグロ氏は、「グアンタナモすべてを描き出した映画で、収容所をカメラがゆっくりとパンし、カメラがトラックしながらその全貌を見せていくそのスケールの大きさに吃驚すると同時に、ハバナの街をポストカード風ではなくストーリーを尊重し、信頼のおける形で撮っているそのカメラワークの素晴らしさに感動した」と感想を寄せている。
減量などの過酷な役作りをこなし、悲劇の青年を迫真の演技で体現したのは、ハリウッド大作『ヘルボーイ』(04)やイギリスの舞台で活躍中の若手有望株ルパート・エヴァンス。主人公のミューズとなる妖艶なダンサー、マヌエラ役のナタリア・ヴェルベケは、ペネロペ・クルスやパス・ヴェガに次ぐ若きトップ女優としてスペイン国内で絶大な人気を博している。
STORY
もう、逃げられない・・・
嵐の海の翌日、とあるビーチで目を覚ました男がいた。
自分の名前すら覚えていない彼は、
助けてくれた女性ダンサーとの激しい愛に溺れていく。
が、度々フラッシュバックする薄暗い密室で
拷問を受けている忌まわしい記憶・・・。
一体、彼は何者で、過去に何があったのか?
白昼夢のように交錯する日々の果てに彼が行き着いたのは、
あのグアンタナモ収容所の残酷な現実と、
予想を超えた自分の真の姿だった…!
激しい嵐が過ぎ去った後の浜辺で、ひとりの青年が目を覚ました。全身に激烈な痛みを感じ、意識が混濁している彼は、名前すら覚えていないようだ。しかし自分が何者かに追われていることを思い出した青年は、その場に現れた不思議な少年に導かれるように、ふらつく足取りで砂浜から道路へたどり着き、偶然通りかかった車に乗せてもらう。ドライバーの男は青年の手首に刻まれた手枷の傷痕を確認し、ハバナの旧市街にある妹マヌエラのアパートに向かった。兄から押しつけられるようにして青年を一時匿うはめになったマヌエラは、不安を覚えながらも高熱で倒れた彼を手厚く介抱してやった。
やがて意識を取り戻した青年の脳裏に、グアンタナモ収容所でのおぞましい記憶が甦る。
「アルカイダの一味か?」「お前の名前は?」
米軍兵士によって果てしなく繰り返される尋問。椅子に拘束されたまま水浸しの頭巾を被せられ、窒息寸前の恐怖を味あわされた拷問……。眠りに落ちた青年のアラビア語でのうわ言を聞いたマヌエラは、彼がグアンタナモを脱獄してきたのではないかと警戒する。しかし「君は俺の天使だ」と純粋な瞳でつぶやく青年の誠実さに心打たれ、彼をもうしばらく匿ってやる決意を固めるのだった。
なおも青年は、サディスティックな女看守の幻影や囚人仲間の老人が首を吊った記憶に苦しめられる。しかしマヌエラの5メートル後ろを歩くという約束のもとで外出を許された彼は、ハバナの猥雑なエネルギーに満ちた空気に触れ、クラブのダンサーとして働くマヌエラの官能的な踊りを目の当たりにし、少しずつ生気を取り戻していく。
青年はマヌエラへの熱い想いを胸に秘め、マヌエラもまた彼をかけがえのない存在だと気づき始めていた。ついにふたりはアパートで激しく愛を交わす。しかし青年は、マヌエラのパトロン的な存在の不気味な老紳士に恐怖心を抱いていた。その老紳士はなぜか青年がグアンタナモからの逃亡者だと鋭く見抜き、脅迫的な言葉を投げかけてくるのだ。身の危険を感じた青年は、マヌエラに一緒に島を出ようと懇願する。
そんなとき青年の目の前で、交通事故に遭ったマヌエラが病院に運び込まれるという悲劇が起こった。その痛ましいショックと、執拗につきまとってくる謎の老紳士への恐怖に心をかき乱される青年。再び極限の混乱状態に陥ってしまった彼は、ついに自らの本当の過去と向き合うことになる。グアンタナモで彼の身にいったい何が起こったのか。それは青年自身の想像すら超越した衝撃の真実だった……。
10月11日(土)、角川シネマ新宿2[東京]、ホクテンザ[大阪]同日公開!!(全国順次公開)