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幽霊と未亡人

1947/アメリカ
出演:ジーン・ティアニー レックス・ハリソン ジョージ・サンダース ナタリー・ウッド エドナ・ベスト 
監督:ジョセフ・L・マンキーウィッツ

(データベース登録者:ちりつも

偏差値:61.3 レビューを書く

幽霊と未亡人 [90点]

※ネタバレを含むレビューです。
20世紀初頭のイギリス。
海辺の家に若く美しい未亡人が幼い娘と家政婦を連れて、引っ越してきた。
しかし、この家は以前住んでいて自殺したダニエル船長の幽霊が出ると評判の家であった。
案の定、ダニエル船長はルーシーを家から追い出そうと彼女の前に現れたが、勝気なルーシーは幽霊の恐怖に怯えずに船長に立ち向かう。
やがて2人は反発し合いながらも徐々に親しくなっていくのだが。

この作品は未亡人と幽霊とのラブロマンス・ファンタジーです。
ミセス・ルーシー演じるジーン・ティアニーは、すごく上品で洗練された未亡人にぴったりで、彼女の出で立ちや振る舞い、しゃべり方などロンドンの中流階級(多分?)の古き良き奥方風でエレガントです。
それでいて、頑固で傲慢な態度のダニエル船長に対しては俄然と負けずに大ケンカする気の強さをも持ち合わせています。
きっとこの時のルーシーは夫が死んで1年が経ち、新しい人生を再出発しなくちゃ!という女性のたくましさが現れたのだと思います。
「過去をふっ切りたい!」といういってみれば“自立する女のハツラツさ”がルーシーに開放感をもたらして、彼女が生き生きと見えるのでしょう。

対するダニエル船長演じるレックス・ハリソンも役にハマリきっています。
海の男という傲慢だけど野性的な男性らしさがすごく出ていて、突然、嵐と共に現れてワハハ!と笑い、命令調の語り口でしゃべる、それも船乗り特有の(?)女性蔑視まるだしの毒舌ぶり。
おまけにルーシーの着替えはしっかり覗く下品な男性です。
きっとルーシーが今まで知っていた都会の平凡な男性とは全くかけ離れたタイプだったのではないでしょうか。
嫌な奴だけど、どこか味があって憎めないダニエル船長。
ルーシーは初めて家の中で、船長の自画像を見た時から、彼に惹かれてしまったのでは?というほどダニエル船長=ハリソンの目つきはすごくセクシーです。
あの眼で見つめられたら、ドキドキしてしまいます。

中盤はルーシーの前にジョージ・サンダース演じる軽薄なプレイボーイが登場します。
この男はただの女たらしなのですが、ルーシーは船長に惹かれながらも彼と再婚しようと決めます。
この辺りはちょっと考え深いものがありました。
船長といる時は楽しいけれど、彼は生身の人間ではない幽霊。ほんの1年前に夫を亡くしたばかりのルーシーの心に、不安がかられるのも無理はないでしょう。
2人は現実には生きてはいない幻の存在なのです。
現実に生きているルーシーには自分を抱きしめてくれる男性が必要だったのです。
けれども、その夢は無残にも裏切られてしまいます。
悲嘆に暮れるルーシー。
もうダニエル船長は以前のようには現れてはくれません。
ルーシーに人生をまっとうしろ!と厳しく示すかのようです。
私が船長ならルーシーが失望した時、多分現れてあげるのに、と作品を見ながらふと思ってしまいました。
けれど、最後にとてもロマンチックなシーンを見て、「ああ、なるほど、監督はこんなしめくくりたかったのか」と納得しました。
2人は長い時を待って、ようやく一緒に自由に素晴らしい世界を見に行くのでしょう。
背景の景色、特に海の映像とバーナード・ハーマンの幽霊めいた神秘的なメロディもとても作品に合っていたと思います。
一度くらい素敵な幽霊に出逢ってみたいものですね。


2008/06/23 21:05

ちりつも

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