歩いても 歩いても
2007/日本/シネカノン/114分
出演:阿部寛 夏川結衣 YOU 高橋和也 田中祥平 寺島進 加藤治子 樹木希林 原田芳雄
監督:是枝裕和
http://www.aruitemo.com/
夏の終わりに、横山良多(阿部 寛)は妻(夏川結衣)と息子(田中祥平)を連れて実家を訪れた。開業医だった父(原田芳雄)とそりのあわない良多は失業中のこともあり、ひさびさの帰郷も気が重い。明るい姉の一家も来て、横山家には久しぶりに笑い声が響く。得意料理をつぎつぎにこしらえる母(樹木希林)と、相変わらず家長としての威厳にこだわる父。ありふれた家族の風景だが、今日は15年前に亡くなった横山家の長男の命日。食卓を囲んでの何気ない会話のなかに、それぞれの思いが沁み出てゆく・・・
誰もが自分の家族の物語を重ね合わせずにはいられない、是枝流 家庭劇(ホームドラマ)
『歩いても歩いても』は、成人して家を離れた子供たちと老いた両親の夏の一日を辿る家庭劇だ。特別な事件が起きる訳では無い24時間の家庭劇には、家族の関係や歴史が刻み込まれ、そこに誰しもが自分の家族の姿を発見するだろう。
何十年も同じ屋根の下で暮らし続ける老夫婦、久しぶりに家族を連れてやってきた息子と娘、そして15年前に亡くなった長男。母親の手料理は昔と変わらないのに、家の内部や家族の姿は少しづつ変化する。食卓を囲んでの何気無い会話の中に、家族だからこそのいたわりと反目が、ユーモラスに温かく、ときにはほろ苦いせつなさをもって描き出される。
そして家族と言うものの愛しさ、厄介さ、人の心の奥底に横たわる残酷さが、浮かびあがってゆく。
家庭劇(ホームドラマ)の伝統のなかで・・・
是枝監督が見つめた”平凡な家族”
横山家の夏の一日を描いた『歩いても歩いても』を見ると、これまで日本映画やテレビドラマで描かれてきた多くの家庭劇が思い起こされる。
小津安二郎監督や成瀬巳喜男監督ら、巨匠たちが描いた、戦前、戦後の家族の姿。そしてTVに於けるホームドラマの礎を築いた向田邦子ドラマ。例えば向田ドラマの代表作の一つである「寺内貫太郎一家」(74)では、家族の喜怒哀楽をコミカルに描きながら生活に潜む“孤独”をにじませた。「阿修羅のごとく」(79)では、老父に愛人がいることに動揺する4姉妹それぞれが人生のままならなさを噛み締める人間模様を活写した。
家族という小宇宙の中で、人間の哀しみや身勝手さや家族愛を、そして特に女性の“怖さ”を巧みな脚本で鋭く軽やかに描き出した点において、本作もこれら向田作品に通底するものがある。