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パラノイドパーク

Paranoid Park
2007/フランス・アメリカ/東京テアトル=ピックス/85分
出演:ゲイブ・ネヴァンス テイラー・モンセン ジェイク・ミラー ダン・リュー ローレン・マッキニー スコット・グリーン 
監督:ガス・ヴァン・サント
脚本・編集:ガス・ヴァン・サント
撮影:クリストファー・ドイル、レイン・キャシー・リー
原作:ブレイク・ネルソン
製作:ニール・コッブ、デヴィッド・クレス
http://paranoidpark.jp/

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『エレファント』 『ジェリー』 『ラストデイズ』を経て、ガス・ヴァン・サント監督の次なる挑戦は、「被写体に近づくこと」。

思春期特有のゆらぎや痛みを若者たちと同じ目線に立ち、独特の映像センスで描くことで知られるガス・ヴァン・サント。『エレファント』 『ジェリー』 『ラストデイズ』の3部作でカンヌ国際映画祭パルムドールをはじめ、数々の賞に輝き、名実ともに世界中から賞賛を浴びてやまない。
そんなヴァン・サントの最新作は、2007年カンヌ国際映画祭60周年記念特別賞を受賞した『パラノイドパーク』。先行公開されているフランスでは、彼のマスターピースとの呼び声高い、『エレファント』の興行収入を抜く勢いだ。
今回、ガス・ヴァン・サントが題材に選んだのは、ブレイク・ネルソンの同名小説。主人公アレックスがふとした偶然から誤ってひとりの男性を死なせてしまうことから物語は始まる。おびえ、悩み、不安に駆られながらも、まるで何事もなかったかのように日常生活を送っていくアレックス。一夜にして人生の試練に直面することとなり、いきなり現実のただなかに投げ出されたアレックスはあることに気づく。
「僕らのちっぽけな問題とは別の次元のもっと大きな何かが世の中にはたくさんある」。
原作同様、手紙を媒介として一人称で語られる本作は、アレックスと自分が同化していくような錯覚に陥り、かつての自分を思い起こさせる。それはまるで、心の奥底に眠る傷のかさぶたがゆっくりとはがされるかのようだ...。
ヴァン・サントは、自分の犯した"罪と罰"に思い悩み、"大人と子供"のまん中で現実との距離感がうまくつかめない少年のゆれ動く気持ちを、繊細に、そして適度な温かさをもちながら描きだす。
『エレファント』 『ジェリー』 『ラストデイズ』では、一貫して被写体との距離を保ってきた。だが、『パラノイドパーク』では、被写体に歩み寄ることで、新たな世界観をつくりだした。

少年の心を映し出す、映像と音楽のコラージュ

橋の上を流れる車の列。滑走するスケートボード。学校の廊下でおしゃべりに興じている子供たち。スローモーションとクイックモーション。35mmとスーパー8。映りこむ光と影。冒頭からぐっと引き込まれていくガス・ヴァン・サントのつくる映像美。今回は、『2046』『花様年華』のクリストファー・ドイルを撮影監督として起用したことで、より一層、斬新で研ぎ澄まされた映像となった。「『エレファント』『ジェリー』『ラストデイズ』はまぎれもなく最高傑作だ。それらの映画からまた一歩踏み出し、後退することなく前進すること。それがこの映画の最大のチャレンジだった。その場面を表現するいちばんふさわしいカメラワークをみつけるため、いろいろなフォーマットを試していったんだ」(クリストファー・ドイル)。
その映像に呼応するように音楽の面でも新たな飛躍がみられる。今までのミニマムな音楽使いとは一変。ミュージック・コンクレートや映画音楽の巨匠であるニーノ・ロータ、『グッド・ウィル・ハンティング/旅立ち』で起用した、エリオット・スミスやイーサン・ローズのサウンドをあわせることで、見事なサウンドスケープをつくりだしている。一見アンバランスに思える映像と音楽のコラージュ。しかしその不均衡さが少年の不安や葛藤、そして重層的な世界を浮かび上がらせる。

ポートランドでつくられた、スタイリッシュで無機質な映像

オレゴン州ポートランドを拠点として作品をつくりつづけるガス・ヴァン・サント。『パラノイドパーク』でも、自然と都会が共存した街の雰囲気が彼の作品にさらなる魅力を加えている。
原作は、ポートランド出身の作家、ブレイク・ネルソンの同名小説。主演のゲイブ・ネヴァンスをはじめ、出演者のほぼ全員がポートランド出身。音楽もポートランド出身のイーサン・ローズや地元のラジオ番組で使われていたミュージック・コンクレートを使用。映画の中のカフェ、レコード店はヴァン・サント自身のお気に入りの場所でもある。原作、キャスト、音楽、舞台。すべてに注ぎ込まれたポートランドのエッセンスが映像に物語に、スタイリッシュさを加えている。

ストーリー

オレゴン州ポートランド。
16才のアレックスは、トミーおじさんのビーチハウスで手紙を書いている。

ある日、少し年上のジャレッドに「パラノイドパーク」へ行こうと誘われる。パラノイドパークは、治安の悪い場所だ。だけど、たくさんのかっこいいスケーターが集まることで有名な憧れの場所だった。スケートボードをはじめたばかりのアレックスは、まだ行くには早いと思いながらも、「上達してから行く奴なんていない」というジャレッドの言葉に後押しされてパラノイドパークへ行くことに。すっかり気に入ったアレックスは、また今度の土曜日に来ようとジャレッドと約束する。
約束の土曜日。ジャレッドの家に泊まってくると母親に伝え、車を借りる。しかし、ジャレッドの家に着くと、彼女とコーヴァリス旅行に行くためにパーク行きをやめるという。どうしても行きたかったアレックスはひとりパークへ向かう。

スケーターたちの滑りをながめていても、アレックスは自分のまわりのいろいろなことを考えてしまう。離婚調停中の両親。それを気に病みストレスで吐いてしまう13歳の弟。処女喪失しか頭にない彼女のジェニファー。
そんなことを考えているとき、パークに住んでいるという不良グループに声をかけられ、貨物列車の飛び乗りに誘われる。飛び乗りはスリルがあって爽快だ。 列車に乗っているアレックスたちに気づいた警備員が走り寄り、引きずり下ろそうと警棒で殴り始める。命の危険を感じたアレックスは、持っていたスケートボードで警備員を振りきろうとした。そのとき、警備員はバランスをくずし、後ろから来ていた別の列車にひかれてしまう。
列車を飛び降り、確認しにいくアレックス。そこには、胴体が真っ二つに切断された警備員が息もたえだえ、横たわっていた。そして最期の力を振り絞ってアレックスに近づいてくる。アレックスは走り出す。早く誰かに連絡しなければと思いながらも、結局は、凶器となったスケートボードを川に投げ捨て、ジャレッドの家に逃げ帰る。血のついた服はゴミ袋に捨てて、シャワーをあびた。トミーおじさんの海の家にいっているはずの父親に電話をするが、コール音の途中できってしまう。

翌朝、カフェで昨日の出来事を確認するためいつもは読まない新聞を読んでいると、友達のメイシーとレイチェルがやって来る。メイシーはスポーツ欄をチェックしているといいながらも、別のページを読んでいるアレックスを訝しがる。
その夜、家でニュース番組を見ていると真っ二つに切断された警備員の遺体が発見され、事故と殺人の両面で捜査中というニュースが流れる。衝撃の事実を目の前につきつけられたアレックスは、言葉をなくす。

昼休み。スケボーをする生徒だけが呼び出された。教室には警備員の事件について調べているというリチャード・ルー刑事が待っていた。生徒ひとりひとりがパラノイドパークに行ったかどうかを聞かれた。アレックスは行っていないと嘘をつく。半分に切断された遺体の写真に興奮する他の生徒たちとは対照的に無言で写真をまわすアレックス。忘れようとしていたことが写真によって引き戻される。トイレに駆け込み、嘔吐する。

ある週末、アレックスとジェニファーは友達の家へ遊びに行く。みんながジャグジーで遊んでいるのを横目に、ジェニファーに手を引かれ2階の寝室へ。ジェニファーにキスをされ、服を脱がされる。アレックスとジェニファーの初体験が終わる。直後、すぐに電話で初体験をすませたことを友達に報告するジェニファーにはもはや何の感情も抱かない。
数日後の放課後。チアリーディングの練習中のジェニファーに別れを切り出す。突然の別れに納得がいかないジェニファーをおいて立ち去った。
荷物を取りに戻ってきた父親から母親との離婚が決まったことを知らされる。望んだ結果じゃないんだと弁明する父親に、「気持ちわかるよ」と答えるアレックス。
弟が先日みた映画の話をしている。
いつもの日常が流れている。

アレックスが遅れて到着したカフェにはすでにメイシーが待っていた。たわいもないおしゃべりがつづく。ジェニファーと別れたことや、両親の離婚のこと。以前、話したときは興味がないといっていたイラク戦争やアフリカの子供の餓死について。アレックスは言う「僕らのちっぽけな問題とは別の次元のもっと大きな何かが世の中にはたくさんあることに気づいた」と。聡明なメイシーはアレックスの変化に気づく。

数日後、夕暮れの住宅街。メイシーは自転車をこぎながらスケボーにのったアレックスを引っ張っていく。メイシーは先日アレックスが話していたことの答えが出たという。それは誰でもいいから話しやすい人に手紙を書くということだった。

そしてアレックスはあの事件についてメイシーに手紙を書くことを決めた。
真っ白なノートを開く。
<ある日、少し年上のジャレッドに"パラノイドパークへ行こう"と誘われた>
<その1ヵ月後、数学の授業中、僕だけが呼び出された>