ちょっと違う切り口の映画ニュースをお届けするウェブマガジン


3.11後を生きる

2012/日本/エネサイ/85分
出演:五十嵐康裕 
監督:中田秀夫
http://wake-of-311.net

偏差値:--.- レビューを書く 読者レビュー(0)

3月11日に発生した東日本大震災は被災地のみならず、日本全土、国民全員を震撼させ、世界中の耳目が日本に集中しました。海外のニュースでは、阪神淡路大震災同様、略奪行為がまったくなく、避難所で配給される食事に、きちんと整列する被災者たち、それを支える国民の、忍耐強さ、他者への謙譲心など、日本国民の持つ高い規範、倫理、美徳が驚きを持って伝えられました。しかし、そうした「きれいごと」ではすまない「人間の醜さ=リアリズム」もこの映画では語りたいと思います。

普段は劇映画の監督をしている私は、幾多の街を壊滅させ、人々の生活を丸ごと飲み込んだ津波の恐ろしさを、その衝撃的ニュース映像だけで捉えるのでなく、3月11日を生き残った人々が、亡くなった家族を一刻も忘れられぬまま、生を営む=ともに遺された家族を物心両面で支える=仕事に打ち込む姿をドキュメンタリー映画として私自身も含め「非=被災者」に問いたいと強く思いました。 強く意識したのは、仏教でいう「逆縁」です。これは家族の中で、年少者が先に亡くなる苦しみのことです。子や孫を失えば、こうした大災害でなくとも、遺族に大きな心の傷を残します。しかもこの津波では、「お別れ」を言う間もなく、家族たちは亡くなり、またいまだお骨も上がらない方々も数多くいらっしゃいます。

本映画では、岩手県山田町のタラ漁師、五十嵐さん(家族五人全員を失う)に最大の重心を置きつつ、彼が漁を再開し、今をこれからをどう生きるかを見つめます。また、一人娘、孫3人を失った、釜石のスナック経営者三浦さんの根源的問い「なんで私が代わりに死ねなかったのか。なんであんな幼い子たちが」「これは私が何かよほど悪いことをしてきた報いなのか」などの答えのない苦しい自問に対して、被災地沿岸部に信者の多い曹洞宗の、「日本三大霊山」である、「恐山菩提寺」の南直哉院代に供養と、三浦さんの問いについてのお話をお伺いするのを映画の終わりに持ってきています。この映画はこうした問いに答えを見いだすものではありません。うちしがれている被災者の方々に。「さあ上を向いて前に進もう」という気もさらさらありません。 今年年初に、インタビューを受けていただいた五十嵐さんや加藤さん、マリ子さんたちに、完成した映画を見ていただきました。「喜んで」いただきましたが、海抜ほぼ零メートルに建てられていた老人保健施に勤めていた加藤さんは、「行政やオーナーの責任を徹底的に追及したい。そのために、すべての手段を取る」と深い深い「情念」を吐露していただきました。

この映画は、まだ「未完成」なのかも知れません。彼らのその後を追うことが必要になってくるかなと今はその思いを強くしています。

- 中田秀夫(公式サイトより)