三月のライオン
1992/日本/118分
出演:趙方豪 由良宜子 奥村公延 斉藤昌子 芹明香 内藤剛志 石井總亙 長崎俊一 山本政志 伊藤清美
監督:矢崎仁司
製作:西村隆、脚本:宮崎裕史、小野幸生、矢崎仁司、撮影:石井勲、美術:溝部秀二、編集:高野隆一、小笠原義太郎、助監督:石井晋一
(データベース登録者:kira)
偏差値:60.7 レビューを書く
三月は嵐の季節 [90点] [参考:1]
兄を溺愛する妹が事故で記憶をなくした兄を病院から連れ出し、兄をハルオと呼び自分は恋人のアイスと偽って暮らす物語。
インセスト・タブーがテーマの作品で、面白くも楽しくもないストーリーなのにナゼか画面から目が離せなくなる。
二人が暮らすのは廃墟のようなビルの一室。どこかで拾ってきたような冷蔵庫の他に家具らしい家具はない。
崩れ落ちそうな建物と殺風景な部屋が奇妙な恋人として暮らす二人には似合っている。
大きなクーラーボックス持ち歩き、ポラロイドカメラで自分の写真を撮っては電話ボックスに貼り付け売春婦まがいのことをしているアイス。
建物の解体現場で働きながら、何かのキッカケで少しずつ記憶が戻っていくハルオ。
そしてハルオがそのすべてを取り戻した時にぶち当たるどうしようもない現実の大きな壁は最初からわかっていたことなのに、観ているこちら側も重く切ない気持ちに押し潰されそうになる。
矢崎監督はストーリーよりも画面から溢れ出る何かでスクリーンと客席との空間を満たしたいと考えていたと話されていたが、映画の冒頭で大まかな前提を字幕で説明し、後は二人の奇妙で危うい生活を淡々と描いている。
やや黄ばみがかった空、夜の暗さ、建ち並ぶビルなどの美しさがやたらと心に染みる。
起承転結が曖昧で説明不足に思う人もいるだろうが、監督の意図を分かった上で観るとなるほどとうなずける。
16㎜で撮影したものを35㎜にプリントした粒子の荒い画質がよけい二人の危うさを引き立たせている。
観ている時よりも観てから時間が経つほど気になってしまうのが不思議である。
崩れ落ちそうなビルや建物の解体現場、今は少なくなった電話ボックスを見るとこの作品を思い出し、あの二人とはどうしているんだろうかと考えてしまう。
20年前の作品を今回初めて観てもこれほど心に刺さってくるのだから、二人と同年代の公開当時に観ていればもっと深く心に突き刺さっただろうと思わせられた作品である。
2012/12/18 23:58
kira
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