2009/日本/松竹
出演:中井貴一 高島礼子 本仮屋ユイカ 三浦貴大 奈良岡朋子 橋爪功 佐野史郎 宮崎美子 遠藤憲一 中本賢 甲本雅裕 渡辺哲 緒形幹太 石井正則 笑福亭松之助
監督:錦織良成
http://www.railways-movie.jp
努力すれば叶わない夢はないんだよ [85点] [参考:1]
このレビューはネタバレを含みます
受け狙いのようなタイトルとは裏腹に、今年観た邦画の中では今のところベスト1のとてもいい作品である。
東京の一流企業の管理職で取締役への昇格が約束された主人公、筒井(中井貴一)が、島根に住む母親の介護と同期入社の親友の死をきっかけに、49歳という年齢にもかかわらず子供の頃の夢であった島根のローカル鉄道の運転手を目指す物語。
家族は仕事一辺倒の主人公とハーブの店の経営がようやく軌道にのりかけた妻・由紀子(高島礼子)と大学生の娘・倖(本刈屋ユイカ)との3人暮らし。
それぞれに忙しく最近は家族らしい会話もほとんどない状態が続いていたのだか、筒井の思わぬ決断で家族の絆に変化がおきる。
マンションのローンや妻の仕事のため家族の同意なしに夢を成し遂げるのは困難なのだが、母親の介護をキッカケに会話をするようになった娘の協力と、退職した後で夢を打ち明けた妻の意外と思えるほど理解のおかげで筒井は夢に向かって一歩一歩近づいて行く。
そんな筒井の姿は、今の仕事は本当に自分のやりたかった仕事ではないと自覚しながらも食べるために遠距離通勤と残業の日々を送っている私には羨ましく思えた。
鉄道会社では親子ほど年の離れた同期入社の宮田(三浦貴大)がいるが、ある理由から心に傷を持つ彼も筒井とふれ合うことによって少しずつ自分を取り戻して行く。
筒井が宮田に言う『努力すれば叶わない夢はないんだよ』をきれい事と思う人も多いかもしれない。『努力しても叶わない夢もたくさんある』のが現実なのだが、少なくともこの作品を観ている時間だけは筒井の言葉が本当だと信じたくなる。
本作ではそんな筒井の夢だけではなく、田舎で独り暮らしをしている老人が故郷を離れることができない現実や介護が必要になった時にそれを支える人々の苦労が上手く散りばめられている。
これが主人公の夢だけを描いたのなら単なるおとぎ話的な作品になるのだが、母親のエピソードがあることにより、いつ自分に起こってもおかしくない現実として感じられた。
いや実際は昨年そのような決断を迫られたのだが、私にはとうてい筒井の真似をすることができなかったため、その分も含めて自分の思いを筒井に同化させてこの作品を観たのが正直なところである。
妻役の高島礼子の出演場面はそう多くはないが、夫と離れて暮らす妻の立場とこちらも長年の夢であったハーブの店の経営者としての立場の葛藤を上手く演じている、
夫が運転する電車に内緒で乗っていた妻をホームで見つけた筒井が言う『ちゃんと終点まで乗って行ってくれるよな』は、経営者として逆単身生活を続けながら妻でいることが正しいのかと考えている由紀子の悩みを氷解させる。男にとって都合のいい言葉と思われる女性の方も少なからずいるとは思われるが、この言葉も心に染みた。
それにしても『スイングガールズ』から注目していた本刈屋ユイカが、作品ごとに綺麗になっているのに驚きつつも、メガネをかけた女性が好きな私としては最近は彼女がメガネをかけなくなったのが残念でならない(笑)
2010/06/05 06:04