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クヌート

Knut Und Seine Freunde
2008/ドイツ/角川映画/92分
監督:マイケル・ジョンソン
http://www.knut-movie.jp/

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北極では氷原が減少し、ベラルーシの森林には開発が迫る。
そしてベルリンでは育児放棄されたクヌートが・・・

【Introduction】
小さな”奇跡の命”が伝える、地球へのメッセージ。
2006年12月にドイツ・ベルリン動物園で誕生。生まれて間もなく母クマの育児放棄から、世界でも例の少ない人工哺育されたホッキョクグマ・クヌート。一緒に生まれた双子の兄弟は残念ながら生後4日目に死亡するが、動物園の飼育係や獣医らに命を救われたクヌートは順調に成長し、その愛くるしい姿が一般公開されると、ひと目その姿を見ようと動物園には多くの人びとが連日押し寄せる大騒動となった。
連日クヌートの成長がニュースとして発信され、クヌート人気はドイツのみならず世界中に広まった。クヌート効果で動物園の年間来場者数は倍増し、ついにはアメリカの雑誌「Vanity Fair」の表紙を飾る(撮影は世界的有名な写真家アニー・リーボヴィッツ)までに。本作には、誕生から約半年間のクヌートの成長と、昨年病気により急死した”クヌートの育ての親“ トーマス・デルフラインを始めとする飼育員や獣医たちが、試行錯誤を重ね懸命にクヌートを育てる、メモリアルな映像が収められている。

絶滅危惧種ホッキョクグマの現状。クヌートが問いかけること。
いっぽうで、クヌートの存在は、いくつかの問題を投げかけることにもなった。1つは、人工哺育に対する是非。親グマが放棄した子グマを人間が育てることに対しては、様ざまな論議がなされた。もう1つは、クヌートの仲間、ホッキョクグマが絶滅の危機にさらされているという事実。ホッキョクグマは現在、IUCN(国際自然保護連合)によるレッドリストでは絶滅の危険性の高い「危急種」(VU)に指定、減少の原因の1つは地球温暖化による影響といわれている。
動物園でも極めて繁殖が難しいとされるホッキョクグマ。クヌートは人間の手によってその命が守られたが、同じ人間によって北極の氷は減少させられ、野生のホッキョクグマがその生活の場を狭められているのも事実である。クヌートは環境保護大使に任命され、北極の現状とホッキョクグマの生態を人びとに理解してもらうことで、仲間を救うシンボルとなった。
またカメラは、クヌートの成長とともに、厳しい北極の自然の中で生きるホッキョクグマの親子、そして母を人間に殺され、ロシア・ベラルーシの大地に生きるヒグマの兄妹の姿と、クマたちのそれぞれ異なる環境での三様の生態を追いながら、環境は違っても、クマたちの本能や生き残ろうとする意志の強さは同じである、という命のメッセージを伝える。人間を含めた命あるすべてのものが、共存していきながらえることのできる理想の環境とは何か、というエコロジーの原点がここにある。

藤井フミヤが語り、宮本笑里が奏でる。
物語をさらに盛り上げるのが、音楽活動のみならず、ドラマやアートなど枠にとらわれない活動で幅広い層から支持を得ているアーティスト・藤井フミヤのナレーションと、今最も注目されるヴァイオリニスト・宮本笑里の奏でるメインテーマ。時に温かく、時に厳しくクマたちを見守る存在として寄り添っている。

【Story】
 冬の寒さはマイナス40℃にもなる北極。地球上で最大の肉食獣・ホッキョクグマは、この過酷な自然の中で生まれ、長い一生を過ごす。先住民族のイヌイットは、ホッキョクグマをこう呼んだ——「偉大なる孤独な放浪者」。

 北極では数週間前、1頭の母グマが三つ子を産んだ。ホッキョクグマに三つ子が生まれるのは珍しく、これから3ヶ月の間、母親は一切、エサを食べることなく、子育てに専念する。やがて巣穴を出た彼らは、エサを求めて60キロも離れた海を目指すが、もともと体の弱かった1頭は厳しい自然に絶えられず、命を落としてしまう。

 一方、北極から遠く離れたベルリン動物園でも、ホッキョクグマの赤ちゃんが2頭、誕生する。しかし、母グマは育児放棄し、1頭は生後わずか4日後に息を引き取った。残された1頭は「クヌート」と名づけられ、飼育係のトーマス・デルフラインの手によって育てられることに。ホッキョクグマの人工哺育は、トーマスにとっても、ベルリン動物園にとっても初めての体験だ。2時間置きにミルクを与え、排便を促し、体を洗ってやるトーマス。クヌートはそんな彼を本物の母親だと思っているのか、ヒグマやホッキョクグマの子供が安心しているときに出す“笹泣き”をし、子グマらしい腕白ぶりを発揮する。

 そして、ロシア・ベラルーシの森にも母親のいない双子のヒグマがいた。生後5か月の彼らは母親が数日前に命を落としたことも知らず、母親の帰りを待っている。母グマは人間に撃たれてしまったのだ。2頭は本能と母から教わったわずかな知識を頼りにエサを探すが、まだ幼い彼らに腹を空かせた野生のオオカミが襲いかかる。

 その頃、ベルリン動物園では、クヌートが初めて外に出されることに。なかなか外に出ようとしないクヌートに対し、優しく声をかけるトーマス。やがてお披露目の日を迎え、500人もの報道陣と数千人のファンが世界中から押し寄せ、クヌートはたちまち動物園の人気者になる。さらに地球温暖化で絶滅の危機にさらされているホッキョクグマの仲間を救うため、クヌートは環境保護大使にも任命されるが、その一方で、「親グマが放棄した子グマを人間が育てるのは、動物保護の考えに反する。人工哺育は止めて、クヌートを安楽死させるべきだ」という記事が出たことで、ドイツ国内外を巻き込んで大論争が起こる。

北極、ベルリン、ベラルーシ——3つの環境で懸命に生きるクマたちに待ち受ける厳しい試練と運命とは? 

7月25日(土)より、角川シネマ新宿ほか全国ロードショー!