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ブッシュ

W.
2008/アメリカ/角川映画/130分
出演:ジョシュ・ブローリン リチャード・ドレイファス スコット・グレン ジェフリー・ライト タンディ・ニュートン トビー・ジョーンズ デニス・ボウトシカリス ブルース・マッギル コリン・ハンクス ヨアン・グリフィズ ジェームズ・クロムウェル エレン・バースティン エリザベス・バンクス ジェイソン・リッター 
監督:オリヴァー・ストーン
脚本:スタンリー・ワイザー
http://www.bush-movie.jp

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名門一家のダメ息子から、アメリカの最高権力者へ
「パパ、ぼくだって世界を≪チェンジ≫したのに…」

アメリカを代表する名門ブッシュ家の跡継ぎ、ジョージ・W・ブッシュ。上院議員を祖父に、そして第41代アメリカ大統領ジョージ・H・W・ブッシュを父に持つ彼は、テキサス人であることを誇りとし、<W>(テキサス訛りで「ダブヤ」)と呼ばれた。
だがWは父に与えられた仕事も満足にやり遂げられず、40歳になるまで酒とパーティに明け暮れたダメ息子。名門一家に居場所がなく、野球場のセンターフィールドが唯一の心安らげる場所だった。
そんなWがいかにして父親の巨大な影と闘い、第43代アメリカ大統領にまでなったのか? そしてWの父へのコンプレックスが、いかにしてアメリカを、世界を≪チェンジ≫したのか?
これまで描かれることのなかった彼の個人史にスポットを当てたのは、アカデミー賞_に3度輝く社会派映画の巨匠オリバー・ストーン。“世界でいちばん有名な大統領は、世界でいちばん寂しい男だった”という赤裸々な「人間W」を浮き彫りにし、さらに彼を輩出した名門一家の知られざる人間関係まで踏み込んで、余すところなく描いた問題作。

“神の預言(KY)”に始まり“靴よけ(KY)”に終わった大統領
Mr.パーフェクト vs. Mr. KY 大統領父子の確執

 物語は2002年の大統領執務室に集った側近との「悪の枢軸」会議から「イラク開戦」までの政治の舞台裏を縦糸に、66年の名門エール大学友愛会の入会試練から、「神の預言」として大統領選出馬を決意するまでのWの精神形成に至る過去を横糸に綾なされた。
『JFK』(91)、『ニクソン』(95)と物議を醸す大統領映画を手がけ、歴史の影の部分に着目してきたオリバー・ストーン監督は、ブッシュ関連の書物を漁り、彼の言動を検証しながら、事実を積み重ねて物語を組み立て、公平さを心がけたという。ただ今回は前2作とは違い、ストーン監督は人間ブッシュにまるでフランク・キャプラ映画の主人公のようなポイントを見いだした。夢を追いながら、人生に迷い悩める男像である。
 数々の本音まるだしの人間臭いダメ男ぶりが興味深く散りばめられていくのがミソだ。ハーバード大ビジネススクールに「父のコネ」で入学したこと。「転職」続きで、自分はなにも出来ないと荒れていたこと。どうせ「大統領の息子」なんて忘れられる存在と思っていたこと。父親の重圧から「アルコール依存症」だったこと。父親の復讐もこめて「イラク戦争」に踏み切ったこと。

 映画のキーワードは、Wの影にパパ・ブッシュがいたという「父子の確執」である。パパ・ブッシュが大統領選に勝ったとき、自分の影の薄さを嘆き、「パパなんて負ければよかったのに」と愚痴るシーンなど、Wの本音もあらわになる。さらに興味深いのはWの神懸かりぶり。気弱なパパ・ブッシュを離れて、さらに偉大なる父をもとめ、神を人生に指標する。『ブッシュ』は単にWを希代のヒールとして描くのではなく、彼の心の闇に迫り、W自身の持ち味だったという「ヒューマンタッチ」をあぶりだしている。これは人間ジョージ・W・ブッシュの心の内を丸裸にした、人間標本的な傑作人物伝である。


絶妙のキャストアンサンブルが再現する歴史の暗部

 ブッシュ役は『ノーカントリー』(07)、『ミルク』(08)で2年連続オスカー候補になった注目の演技派ジョシュ・ブローリン。自らも大物俳優ジェームズ・ブローリンを父にもち、父子の思いが感じられるという観点からストーン監督が選んだ。パパ・ブッシュ役に『ベイブ』(95)、『L.A.コンフィデンシャル』(97)のジェームズ・クロムウェル、母親バーバラ役に『アリスの恋』(74)、『レクイエム・フォー・ドリーム』(00)のオスカー女優エレン・バースティン。ブッシュ政権の側近たちも演技派揃い。チェイニー副大統領役に『グッバイガール』(77)、『ポセイドン』(06)のオスカー俳優リチャード・ドレイファス、パウエル国務長官役に『シリアナ』(05)、『007/慰めの報酬』(08)のジェフリー・ライト、ラムズフェルド国防長官役に『ライトスタッフ』(83)、『ボーン・アルティメイタム』(07)のスコット・グレン、ライス報道官役に『M:I-2』(00)、『クラッシュ』(04)のタンディ・ニュートンなど。実物の人物を彷彿させる俳優たちによる、イラク開戦前の秘密会議の再現は、各々の政治的思惑が交錯する。歴史の一考察を示す見せ場だ。

STORY

「お前にはあと何回チャンスをやればいいんだ? 優秀な弟を見習え!」
数々の政治家を輩出し、アメリカを代表する名門ブッシュ家。その跡継ぎジョージ・W・ブッシュ(ジョシュ・ブローリン)を、人はW(テキサス訛りで「ダブヤ」)と呼ぶ。
 Wの行く手には、いつもパパ・ブッシュ(ジェームズ・クロムウェル)の影があった。66年、Wはパパも卒業した名門エール大に入学。アメフトの応援でハメをはずして逮捕されるも、パパの力で釈放。卒業後はパパに仕事をあてがわれるも、根気がなく職を転々。口説いた女に妊娠話も浮上し、パパが揉み消すはめに。「お前は何様だ! ケネディか? お前はブッシュ家の人間だ。それらしくしろ!」
次男に目をかけるパパにとって、Wは家名を汚す不肖の息子だった。Wは「本当にやりたいのは野球の仕事だ」とパパに訴える。野球場のセンターフィールドが唯一、彼の心安らぐ場所だった。「お前にはガッカリさせられっぱなしだ」とパパは失望を隠さない。

「いつかはボクも、パパに認められたい…」
72年、ままならないWは酒に溺れはじめた。ある夜、酔ったWはパパと言い合いになる。「Mr. パーフェクト」とパパに厭味を言うWに対して、パパはハーバード大ビジネススクールのWの合格も自分のコネだったと言いつのった。
77年、そんなWも遂に「家業」を継ぐことを決意。地元テキサスの下院議員選で共和党候補を目指す。ある日、Wはパーティでローラ(エリザベス・バンクス)と出会った。図書館司書の彼女が気に入り、当選したら教育アドバイザーになって欲しいと口説いた。が、選挙戦は散々。
 86年、Wの40歳の誕生パーティでパパから祝いの電話が入る。86年の大統領選を目指すパパは、「選挙戦を手伝ってくれ」と声をかけてきた。どうせ弟の代わりだろうとも思うが、歓びが湧いてきた。

「本当はパパなんて負けてしまえば良かったんだ…」
88年、Wの策略がハマってパパは大統領選に勝利。でも、Wは一緒に祝う気になれない。「ボクは父の陰にいるだけ。大統領の子供なんて誰も覚えていないんだ」と妻ローラに愚痴を言う。「本当はパパなんて、負けてしまえばよかったんだ…」
4年後、パパの任期は1期で終わり、ビル・クリントンが次期大統領に。「湾岸戦争でフセインに止めを刺していたら、パパは2期目も勝てたのに!」 父を力づけ、弟よりも自分を認めさせたい。フロリダ州知事に立候補する弟と張り合うように、Wはテキサス州知事選に立候補。Wは当選したが、パパは落選した弟を残念がるばかり。「一体いつになったら、ボクを見てくれる?」

「お前が大統領になるのだ——」
そんなあるとき、Wは神の預言を聞いたのだった。「本当は、僕は大統領選に名乗りを挙げたくはない。でも、天の啓示を受けた。お前が、大統領になるのだ——と。アメリカはボクを必要としている」。そして遂にWは第43代大統領になる。だが世界の運命を変えた9.11同時多発テロが、Wとパパとの関係をも永久に変えてしまうのだった…。