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レイン・フォール/雨の牙

2008/日本/ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント/111分
出演:椎名桔平 長谷川京子 ゲイリー・オールドマン 柄本明 ダーク・ハンター 清水美沙 中原丈雄 若松武史 小木茂光 浜田晃 平山祐介 坂東工 
監督:マックス・マニックス
原作:バリー・アイスラー
脚本:マックス・マニックス、バリー・アイスラー
撮影:ジャック・ワーレハム
美術:山崎秀満
音楽:川井憲次

http://rain-fall.jp/

偏差値:50.0 レビューを書く 読者レビュー(1)

罠に墜ちた暗殺者ジョン・レインに、〈東京〉が牙をむく!

椎名桔平、長谷川京子、ゲイリー・オールドマン! 名優たちの豪華共演に酔う!
 男は、何の痕跡も残さず標的を自然死させる暗殺者。女は、将来を約束された美貌のジャズ・ピアニストであり殺しのターゲット。接点のなかった二人が出会ったとき、運命を変える逃避行が始まる。大都会<東京>が、逃げる二人に牙をむく!
 日本映画でありながら 国境を越えた国際的プロジェクトとして注目を集める『レイン・フォール/雨の牙』。この緊迫のドラマに血肉をあたえるのは、3大スターの火花散る共演だ。国際都市東京の闇を描いた このサスペンス大作が、いよいよベールを脱ぐ。

 元CIA工作員の著者による 全米ベストセラーの原作!
<追う者から追われる者へーー>状況が一瞬で逆転する面白さ!

 原作はバリー・アイスラーの人気小説「雨の牙」で、ここから派生した“ジョン・レイン”シリーズはこれまで全6巻が発行され、日本でも4巻が発売済み。元CIA工作員という経歴を持ち、日本滞在歴も長いアイスラーの実体験に基づいている、このシリーズはディテールにこだわったリアルな展開で読者の熱烈な支持を集めている。今回の映画化でも、そんな原作の持ち味は十分に活かされている。主人公レインの大胆にして繊細な行動、鉄壁の包囲網で標的を追い詰めるCIAの戦術、警察の動き。説得力があり緻密なこれらの描写は、見る者の好奇心を強く引き付けるに違いない。
 加えてスリルを盛り上げるのは、設定の巧妙さだ。標的を自然死に見せかけて殺害するジョン・レインは唯一無二の暗殺者で、いわば“殺しのアーティスト”というべきキャラクター。それだけでもオリジナリティは強いが、本来は追う側である彼が一転して追われる側へと変わる逆転の構図も面白い。さらに消えたメモリーステッイックをめぐる攻防と、その背後に潜む陰謀、そしてレインとヒロイン、みどりを簡単には逃してくれない大都会、東京の罠。身を隠しやすいはずの雑踏中にあっても何万台もの監視カメラの下では裸同然で、何万人もの視線が飛び交う。周囲の環境すべてが敵に回ったかのような緊張感。二人に牙をむく東京の街は、もはや背景ではなく本作の第二の主役ともいえるだろう。

世界中のスタッフ&キャストが融合(フュージョン)した日本映画!
 暗殺者ジョン・レインに扮するのは椎名桔平。ジェイソン・ボーンに勝るとも劣らない知的で華麗な演技をみせながら、我々と等身大の人間味あふれるキャラクターを見事に演じ役者としての新境地を切り開いた。また、レインとともに逃亡するヒロイン、みどりには長谷川京子。ジャズ・ピアニストという難役をこなしながら、強さと美しさを体現した姿は女優としての確かな成長をうかがわせるだろう。そして彼らを追うCIAアジア支局長・ホルツァー役で、『レオン』や『ハリー・ポッター』シリーズでおなじみの英国の演技派スター、ゲイリー・オールドマンが日本映画に初出演。冷徹と執拗、激情を覗かせながらスクリーンを引き締め、圧倒的な存在感を見せるのはさすがである。クライマックスとなる椎名桔平との対峙シーンでは 互いに一歩も譲らない鬼気迫る演技を見せる。
 スタッフも国際的な顔ぶれがそろい、才能をぶつけ合う。監督のマックス・マニックスはオーストラリア出身の俊英で、昨年のカンヌ映画祭・ある視点の審査員特別賞を受賞した黒沢清監督の『トウキョウソナタ』では脚本を手がけている。バリー・アイスラーが生み出した入り組んだストーリーをシェイプし、整然とまため上げた脚本家としての手腕はもちろん、スピーディーな演出の妙も見逃せない。さらに美術に『半落ち』の山崎秀満、音楽に『DEATH NOTE』の川井憲次と、日本映画界の優れた才能が結集。グラミー賞受賞歴を持つR&Bシーンの天才的なシンガーソングライター、ジョン・レジェンドが主題歌「ディス・タイム」を提供したことも話題を呼んでいる。
 撮影が難しいとされる東京の市街地35箇所ででロケを敢行、国境を越えて才気が結集し、触発し合って生まれた『レイン・フォール/雨の牙』。旧態依然とした映画のスタイルを変える、大きな可能性を秘めた作品であることに疑いの余地はない。2009年、決して見逃すことのできない最大の注目作なのだ。

21世紀の東京フィルム・ノワール
 虚無的で悲劇性を漂わせた的な犯罪映画を総称した“フィルム・ノワール”という言葉は、フランス後で“暗い映画”という意味。『マルタの鷹』『黒い罠』をはじめとする1940年代のハリウッド製犯罪映画にその呼び名が付けられたことを源流にして、このジャンルは脈々と生き続けてきた。運命を狂わせるファム・ファタールの出現によって主人公を破滅させるのが定番パターンであった“アメリカン・フィルム・ノワール”、男同志の友情や裏切りを哀切に描いてみせた“フレンチ・フィルム・ノワール”。いずれの作品も、男たちは己のルールに従い、壮絶な生きざま、死にざまを見せてくれた。
現代のフィルム・ノワールは、これらとは多少かたちが変わり、ニヒリズムは減退している。しかしハードボイルドな空気感とスタイルは、『男たちの挽歌』の大ヒットによって80年代にブームを起こし、感情に裏打ちされたエモーショナルなアクションを叩きつけた“香港フィルム・ノワール”等に受け継がれている。
そして21世紀。『レイン・フォール/雨の牙』の主人公ジョン・レインは証拠を残すことなく、自然死に見せかけて標的を殺すプロの暗殺者。手口は大胆だが行動は慎重で、これまで一度もミスを冒したことがない。その姿は、歴代のフィルム・ノワールの主人公と並べても遜色はない。が、そのキャラクターはクールで非情で強欲な“暗殺者”ではなく、我々と同じ日常に生き、周りにどこにでもいそうな人間味あふれる存在として描かれている。  暗殺者でありながらも 少年のような純粋な心を持ち、その心はどうしようもない孤独感に押しつぶされて、今回の仕事を最後に引退しようと決めていた。その矢先に 運命の女 みどりに出会い本当の自分と向き合うことになる。今の時代にありえない人物設定ではなく あくまでも我々と等身大の主人公に対する親近感・リアルさが物語に深みをもたらし本作の大きな魅力となっている。
 オリジナルのフィルム・ノワールが生まれた背景には、第二次大戦後の混乱や冷戦などの不安定な社会情勢があった。現代もまた、出口の見えない暗い時代に突入していると感じている人は決して少なくないだろう。世界的な不況、政治不信、地球温暖化など、現代人を不安にさせる要素は大小さまざまに存在している。『レイン・フォール/雨の牙』で描かれる権力腐敗の構図や、監視社会の脅威も、また然り。信じられるものが確実に減少している時代、自分を信じて闇を突き進むレインの姿は魅力的に映るだろう。21世紀の新しい“東京フィルム・ノワール”である。


<STORY>
日本人の父、アメリカ人の母を持つ日米ハーフの暗殺者ジョン・レイン。アメリカ国籍。高校で入隊し27歳で軍の秘密工作員になる。アフガニスタン、イラク、南米・・最後の18ヶ月はアメリカ海軍特殊作戦司令部にいた。アメリカがかかわった紛争でレインが知らないことはない——。

東京——
国土交通省の高級官僚、川村安弘(中原丈雄)を自然死にみせかけて殺し、メモリースティックを奪う、ジョン・レイン(椎名桔平)が仲介人のベニー(若松武史)を介して受けた仕事は いつもとは違う危険な匂いがしていた。常に単独行動をとり、決して人に悟られることなく任務を遂行してきたレインは、謎の人物に自分が尾行されていることに気づく。彼を叩きのめして隠れ家に戻ったレイン。嫌な予感は的中した。が、降りるには遅すぎる…… 決行は明日なのだ。 同じころ、CIAアジア支局の局長ホルツァー(ゲイリー・オールドマン)はレイン拘束に向けて 東京中に捜査網を張りめぐらせていた。レインに奪われる前に、メモリースティックを手に入れるために・・・。

 当日。仕事を終えて、夕方のラッシュで賑わう地下鉄に乗り込んだ川村は突然、車内で苦しみ始める。彼の心臓に埋め込まれたペースメーカーを、同じ車両に乗り込んでいたレインが携帯で操作し“それ”を狂わせたのだ。倒れこむ川村、それを取り巻くCIA、メモリー・スティックを必死で探すレイン。人々が騒然となった駅のホーム。その一部始終をCIAオフィスで監視カメラ越しに見ているホルツァーをあざ笑うかのようにレインは姿を消した。しかし川村が持っているはずのメモリースティックはどこにも見当たらなかった。そして、レインはCIAをはじめ、見えない敵から追われる羽目になる。いったいなぜ?メモリースティックには何が隠されているのか?    
レインは 消えたそれの手がかりを探すために川村の自宅へ侵入。そこで次女の奈緒子と対面したが、何者かの手により殺された。

動き出したのは メモリースティックを追う連中だけではなかった。上層部からの理不尽な命令を受けて渋々捜査に乗り出すことになったベテラン刑事タツ(柄本明)。この14ケ月の間に、高級官僚が3人自然死しているのは単なる偶然か? 川村の自然死に疑問を抱いていたタツは粘り強く、この事件の真相を追い続ける。

 川村の長女、みどり(長谷川京子)は将来を有望視されているジャズ・ピアニスト。みどりが演奏するジャズ・クラブを訪れたレインは、楽屋に進入し妹の奈緒子が殺され、彼女も命を狙われていることを伝える。全くとりあわないみどり。激しいやりとりが交わされる中、ふいをついて刺客に襲われかけた彼女をレインは間一髪で救出する。行きがかり上 東京の街を逃亡する中で レインはみどりに生き延びる術を教えようとする。が二人の行動は何万台も設置された監視カメラによって調べつくされていた。逃げる二人に大都市東京が牙をむいて襲い掛かる。みどりの父を殺した暗殺者と何も知らないみどり。危険と隣り合わせの逃避行で 孤独な二人の心に芽生え始めた感情。が、62時間後 思いも寄らない衝撃の事実を突きつけられることは まだ知らない。

みどりを自分の隠れ家に残し、レインは米国人ジャーナリスト、ペリマン(ダーク・ハンター)に接触。川村は彼にMSを渡そうとしていた。ペリマンはMSには日本国家を崩壊させる秘密が隠されていたことを告白する。その情報がCIAに渡れば日本政府はアメリカの圧力に屈せざるをえない結果になるということを・・・。レインは危険を冒し、敵の懐に飛び込むことを決意する——。

4月25日(土)より丸の内ルーブルほか全国ロードショー。