エンプレス −運命の戦い−
江山美人/An Empress and the Warriors
2008/中国・香港/ツイン/95分
出演:ドニー・イェン ケリー・チャン レオン・ライ グオ・シャオドン コウ・ジェンハイ
監督:チン・シウトン
その華麗なるワイヤー・アクションで、香港映画を世界的レベルにまで押し上げたチン・シウトン監督。古くは「チャイニーズ・ゴースト・ストーリー」から、近年はチャン・イーモウ監督と組んだ「HERO」、「LOVERS」、「王妃の紋章」などの武侠映画三部作で知られる彼が、自らメガホンを取り久々に手掛けた監督作品。戦国時代に揺れる中国を舞台に、王位継承を受けた一国の王女を守るため、命を賭けて彼女を守ろうとする軍人たちの愛と戦いを、ダイナミックなアクションに壮大なスケール、圧倒的な映像美で描いた武侠アクション超大作。
総製作費約1500万ドルをかけて創り上げられた本作は、巨大なセットと大規模なロケにより、重厚さとスケール感を出す事に成功。そして数百人のエキストラを総動員して撮影されたアクションシーンは、リアルかつ技の華麗さも手伝い、かつての香港映画の持つパワーを思い起こさせる。
主演には香港の三大スターであるドニー・イェン(「HERO」、「SPL狼よ静かに死ね」)、ケリー・チャン(「インファナル・アフェア」、「冷静と情熱の間」)、レオン・ライ(「セブンソード」、「天使の涙」)を迎え、それぞれが魅力的なキャラクターで競演を果たしている。他にも中国期待の若手スター、グオ・シャオドンや、実力派、コウ・ジェンハイの出演も見所。彼らが甲冑に身を包み、本格的アクションしていることでも話題と注目を集めている。
ストーリー
かつてから戦いを繰り広げてきた二つの国、燕国と趙国。ある日、辛くも戦には勝利するが、燕国の王は討たれ、王は死ぬ間際に側近である将軍の雪虎(ドニー・イェン)に戦いの全権を任せると告げる。そして伝家の宝刀である飛燕剣を、王女である燕飛児(ケリー・チャン)に託し雪虎が戻ったら飛燕剣を渡すようにと指示をする。
家臣たちによって王位継承者の候補が選ばれ、雪虎、飛児、将軍であり王の甥である胡覇(グオ・シャオドン)の名が挙がるが、雪虎は王位を王女である飛児に継がせ、自分は彼女を相応しい人物にすると宣言する。
やがて飛児は雪虎の厳しい指導により、軍人としても実力を高めて行く。しかし、野心家であり飛児の王位継承に反対し、それを妬む胡覇は、彼女の暗殺を企み刺客を放つ。刺客の襲撃により毒矢を肩に受け、絶体絶命の危機にさらされた飛児を救ったのは、山奥で隠遁生活を送る元戦士の段蘭泉(レオン・ライ)。かつては朔月の名戦士として名を馳せた彼だが、今は戦いを嫌い一人森の中で暮らしている。
飛児を自宅へと連れ帰った蘭泉は、薬草で彼女を治療する。一命をとりとめた飛児は、蘭泉に恩義を感じその優しさに惹かれ、やがて淡い恋心を芽生えさせる。だが、彼女には王になるという大義があるため、いつしか城へ戻らなければならない。その頃、王女の不在を嗅ぎつけた趙国は、再び燕国へ攻め入ろうとしていた。
心揺らす飛児の元へ、彼女を探す雪虎がやって来た。飛児の正体を知り驚く蘭泉。
蘭泉と別れ飛児は、雪虎と共に戦場へと舞い戻る。しかし胡覇の企みにより燕の軍勢はわずかに二千。敵である趙国はその数一万。しかし飛児と雪虎は智的戦術を用いて勝利を勝ち取った。飛児は長年繰り返されてきた悲劇と怨念を断ち切るため、捕らえた趙国の王族を解放する。
このことにより王位継承者としての信頼を得た飛児だが、彼女は己の心のままに生きる事を決め、王位を雪虎に託すと蘭泉の元へと向かう。再会し互いの想いを感じ取る飛児と蘭泉。つかの間の幸せを得る二人だが、それは長くは続かなかった。失墜した胡覇が己の野心のまま、燕国を我が物にしようと襲いかかる。蘭泉に飛児を託すと、雪虎は単身、胡覇の大軍に立ち向かう。
王位の行方は? そして国と愛の狭間で揺れる三人の運命は!?
「江山美人」の由来
本作品の原題ともなっている「江山美人」とは、中国の民間伝承として語られる物語であり、黄梅調の古典劇ともして知られている。黄梅調とは、中国湖北省黄梅県などに伝わる彩茶調と呼ばれる民謡をベースとし、物語を形成。また各地方の風土色などが取り入れられ演劇となったものである。詩は七字が一節となり、台詞を歌う様に語っていくので、ある種ミュージカルともいえる。
瞬く間に中国で人気となり広まった黄梅調演劇は、やがて、香港映画界でも題材として映画化される。映画会社ショウ・ブラザースの製作を筆頭に、50年代末から60年代前半まで黄梅調映画は一大ブームとなり、その代表作が63年の「梁山泊與祝英台」で、当時アジア全土で記録的なヒットとなった。監督は香港映画界の巨匠で、日本でも「西大后」(84)や「火龍」(85)で知られるリー・ハンシャン。その黄梅調映画の布石ともなったのが、本作品と同名で、59年に製作された「江山美人」であり、日本でも62年5月17日に公開されている。物語は若くして帝位についた明の聖徳帝と、身分の違う酒屋の娘との悲恋物で、第6回アジア映画祭で最優秀作品賞を受賞している。
本作はタイトルこそオリジナルと同名ながらも、監督であるチン・シウトンの手により武侠映画へと転生。まったく別次元の作品であるが、タイトルを「江山美人」としたことから、かなりインスパイアされているのであろうと思われる。因みに彼はリー監督が60年に撮った「真説チャイニーズ・ゴースト・ストーリー」を、ツイ・ハークと共に名作「チャイニーズ・ゴースト・ストーリー」(87)としてリメイクしている。また、ツイ・ハークは「梁山泊與祝英台」を「バタフライ・ラヴァーズ」(94)としてリメイクし、チン・シウトンも更にそれを武侠映画としてリメイクした「武侠梁祝」(08/ジングル・マ監督)でアクション監督を担当している。ちなみに上記のオリジナル作品に、助監督や俳優として参加していたのが武侠映画の巨匠、キン・フー監督であるのも、どこか因縁を感じさせる。この様な部分を見据えて作品を鑑賞すれば、違った側面も見え興味深いのではないだろうか。
4月4日(土)より
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