ラ・ボエーム
La Boheme
2008/ドイツ・オーストリア/東京テアトル、スターサンズ/118分
出演:アンナ・ネトレプコ ローランド・ビリャソン ニコル・キャンベル ジョージ・フォン・ベルゲン ボアーズ・ダニエル アドリアン・エレード ステファーヌ・ドグー ヴィタリ・コワリョフ
監督:ロバート・ドーンヘルム
http://laboheme.eiga.com/
100年の時を超えて愛される傑作オペラが、
現代最高のドリーム・カップルの歌と演技で、スクリーンに永遠に刻まれる!
ロマンティックな物語と天才的な旋律が融合した、プッチーニの魅力
映画、演劇、美術、音楽──あらゆるエンタテインメントで、数多くの作品が生まれては消えていく今日でも、驚くほど長い歳月にわたって愛され続けているものがある。イタリア・オペラ界の天才と讃えられる作曲家、プッチーニの「ラ・ボエーム」も、その1つだ。初演は1896年のトリノというから、実に112年もの間、世界中の人々に親しまれてきたことになる。
1600年頃に誕生したオペラは、ヨーロッパ文化の華として人々を酔わせ続けた。なかでもイタリア・オペラは、モーツァルトの影響を受けたロッシーニの活躍を経て、19世紀半ばに巨匠ヴェルディによって頂点を迎える。その後継者として現れ、19世紀末から20世紀にかけて大人気を博したのが、プッチーニだ。「マノン・レスコー」、「トスカ」、「蝶々夫人」、完成直前に亡くなった伝説の遺作「トゥーランドット」──これら綺羅星の如くいならぶ名作を差し置いて、最も頻繁に上演されている作品が、「ラ・ボエーム」なのだ。
プッチーニのオペラの魅力は、感傷的でロマンティックな物語と、天才的なまでに美しい旋律の融合だ。高尚でありながら大衆芸術であるというオペラの本質を、見事に体現しているのだ。フランスの作家アンリ・ミュルジェの小説「ボヘミアン生活の情景」を、台本作家イッリカとジャコーザが脚色した「ラ・ボエーム」は、まさにそのプッチーニの魅力が最大限に発揮された作品なのだ。
舞台は19世紀半ばのパリ。どんなに貧しくても自由を謳歌して生きる若きアーティスト、“ボヘミアン”たちの愛と生と死の物語。「ラ・ボエーム」の舞台を現代のニューヨークに置き換えたブロードウェイ・ミュージカル「レント」 の記録的な大ヒットが示すとおり、“青春の挫折と希望”は、いつの世も変わらぬ普遍的なテーマなのだ。
この、人々が求めてやまない傑作オペラを、スクリーンに永遠に焼き付けたのが、映画『ラ・ボエーム』である。
不治の病に引き裂かれる恋──心を揺さぶる、美しくも悲しいラブストーリー
クリスマス・イブの夜に出逢った、詩人のロドルフォとお針子のミミは、ひと目で恋におちる。屋根裏部屋で、芸術家仲間たちと夢だけを食べて生きているような暮らしだったが、互いの愛さえあれば、世界中の誰よりも幸せだった。ところが、不治の病を患っていたミミの病状は日に日に悪化、貧しさゆえに何もしてやれないロドルフォはミミとの別れを決意する。春がすぐそこまで来ていたある日、街の噂では裕福な子爵の世話になっていたはずのミミが、思わぬ姿で、ロドルフォの前に現れる……。
心を揺さぶる美しくも悲しいラブストーリーの王道を、ドラマティックに演じきったのは、ミミに扮したアンナ・ネトレプコと、ロドルフォに扮したローランド・ビリャソン。2005年にザルツブルグで上演されたヴェルディの「椿姫」で共演して以来、2人は現代最高のドリーム・カップルと讃えられ、世界的な名声を獲得、アンナは“マリア・カラスの再来”とも呼ばれている。ドリーム・カップルを支えるのは、卓越したゴールデン・ヴォイスで、自由奔放に恋に生きるが、心根は優しいミュゼッタを演じるニコル・キャベル。ウィーン放送交響楽団のベルトラン・ド・ビリーの指揮の下、バイエルン放送交響楽団が演奏し、バイエルン放送合唱団が参加した。
監督は、「オペラ『ラ・ボエーム』を映画にしようと思った第1の動機は、2人の素晴らしい歌手を記念する物を作りたかった」と語る、ロバート・ドーンヘルム監督。デビュー作のドキュメンタリー映画でアカデミー賞にノミネートされ、カラヤンのドキュメンタリーや TVシリーズの「戦争と平和」などで高く評価されている。舞台では不可能な、映画ならではのリアリティに溢れた背景を描くために、スタジオ・セットで19世紀半ばのパリの街並みや店、アパートを完全に再現した。現在大ブームとなっている“ボヘミアン・ファッション”も忠実に再現、貧しくとも心は豊かだった時代を生き生きと描いている。
物語
クリスマス・イブの夜、恋におちた2人
男は、愛しているから別れた
女は、愛しているのに別れた
春を待つ思い出の部屋で、再会した2人の運命は──?
クリスマス・イブの出逢い──1830年、パリの屋根裏部屋
自由気ままに生きるボヘミアンたちが暮らす屋根裏部屋。詩人のロドルフォ(ローランド・ビリャソン)と画家のマルチェッロ(ジョージ・フォン・バーゲン)は、寒さに震えている。薪を買う金もないのだ。ロドルフォの原稿を「この世の多大なる損失」などとふざけながら燃やしていると、哲学者のコッリーネ(ヴィタリ・コワリョフ)、音楽家のショナール(エイドリアン・エロード)がやってくる。3日間ピアノを弾き続けて稼いだというショナールは、3人に街へ繰り出そうと提案する。
原稿を書き上げてから追いかけると、1人残ったロドルフォ。そこへ突然、階下の部屋に住むミミ(アンナ・ネトレプコ)が、ローソクの火をもらいに来る。部屋の鍵を失くすミミ、消えてしまう2人のローソク、鍵を探して暗闇の中で触れ合う手と手──その瞬間、2人は恋におちる。すべての恋がそうであるように、理由もなく、激しく。急いで互いのことが知りたくて、身の上話を始める2人。お針子をしている一人暮らしのミミの唯一の楽しみは、バラやユリの花を育て、春を待つことだという。
しあわせな時間──カフェ・モミュスの陽気な夜
仲間の待つカフェ・モミュスへと出かける2人。熱々の焼き栗や甘いキャンディが並ぶ広場は、クリスマス・イブを祝う人々で賑わっている。ロドルフォはミミに、ピンクの刺繍を散らしたレースのボンネットを贈る。仲間たちにミミを紹介するロドルフォの口からは、彼女を讃える詩があふれ出す。この恋は、スランプに陥っていたロドルフォの詩心までも、復活させてくれたのだ。
そこへ、歳の離れたパトロン、アルチンドーロ(イオアン・ホランダー)にエスコートされたムゼッタ(ニコル・キャベル)が現れる。喧嘩別れした、マルチェッロの元恋人だ。まだ、相手のことが忘れられない2人は、互いの存在が気になって仕方がない。最初はわざとムゼッタを無視していたマルチェッロだが、堪えきれずに彼女への想いを語る。それを聞いた彼女は、足が痛いと嘘をついてアルチンドーロを靴屋に追いやるのだった。自分とロドルフォたちの勘定書きをアルチンドーロに残し、マルチェッロの元へと帰るムゼッタ。
身を切る別れ──アンフェール門の冷たい雪
2月下旬の夜明け前。ミミは、マルチェッロがムゼッタと共に身を寄せる居酒屋を訪ねる。ミミは、クリスマス・イブの夜から一緒に暮らし始めたロドルフォのことを相談にやって来た。ロドルフォは、根拠のない嫉妬に身を焼き、ミミに辛く当たるようになっていた。そしてついに昨夜、「もう終わりだ」と言い捨てて、部屋を出て行ったというのだ。
ミミを置いて行ったロドルフォは、他ならぬその居酒屋にいた。目を覚ますロドルフォ、身を隠すミミ。マルチェッロの問い詰めに、ロドルフォは悲しい事実を口にする。ミミは不治の病にかかっていて、日々悪くなる一方だというのだ。心からミミを愛しているが、貧しさのあまり何もしてやれない。彼女のために別れるというロドルフォ。驚きのあまり姿を現したミミは、ロドルフォの決意を受け入れて、去っていく。ボンネットを「私たちの愛の形見として持っていて」と言い残して──。
予期せぬ再会、そして──愛が始まった屋根裏部屋
数ヵ月後、屋根裏部屋で机に向かうロドルフォには、一編の詩も涌いてこない。傍らでキャンパスに向かうマルチェッロも同じだった。彼とムゼッタも、別れを選んでいた。ミミは、裕福な子爵の世話になっているという噂で、マルチェッロは豪華に着飾って馬車に乗るミミを見たという。
コッリーネとショナールに励まされていた傷心の2人の前に突然、ムゼッタが現れる。ロドルフォの側で死にたいと、子爵の屋敷を出たミミを連れてきた、と。独りで歩くこともできないほど、衰弱したミミ。薬を買いに行くムゼッタとマルチェッロ。外套を売って金にかえようと出て行くコッリーネは、2人きりにしてやろうとショナールを促す。
ロドルフォに「あなたは私の愛。そして私の命のすべて」だと心をこめて伝えるミミ。懐かしい屋根裏部屋で、変わらぬ愛を確かめ合う2人。医者が来たら、薬が届いたら、きっと治る──。ロドルフォはそう信じて、いつも胸に抱いていたボンネットを、ミミにそっと手渡すのだった……。